’96年、26歳のときにミュージシャンとしてメジャーデビューし、2002年には渡仏。音楽活動のみにとどまらず、エッセイや映画解説などを書き、さらには『ボンズール ジャポン』というフリーペーパーの編集長をつとめるなど、まさにマルチな活動を繰り広げてきた猫沢エミさん。パリのグラフィティーチームのメンバーだったこともあり、現在は東京をベースに、フランス語を教えるなど、一体何足の草鞋を履いているのやら、“職業”や“肩書”といったものを軽々と飛び越え、彼女にしかできないやりかたで“仕事”をしている。その充実した暮らしぶりを聞こうと水を向けると、しかし、
「実は10年前、日本に戻ってきた後、大病を患い長く休まざるを得なかったんです。お金もない、身体も治らない、ないない尽くし。食事もどうでもいいや、となると、もう、スパイラルを描くように落ちていくものなんですよ」
その頃は何ひとつ建設的なことを考えられず、まるで海の底にいるような気がしていたという。