くらし

アプリを開いて聴くのも 普通になって思うこと。│しまおまほ「マイリトルラジオ」

数年前からラジオリスナーになったという20代の男性からこんな意見を聞いた。

「この間初めてチューナーでラジオを聴いたら、BGMやCMを聴くことができて、すごく新鮮でした」

彼は地方に住んでいるので、関東で流れている番組は“ラジオクラウド”という局の提供するサービスをスマホで聴いているという。ラジオクラウドでは、コーナーごとに放送が区切られて配信されるので、リスナーは好きな時に好きな番組の好きなコーナーを選んで何度も聴くことができる。しかし、権利の関係でCMや音楽、BGMまでも(ごく小さな音では聴こえることもある)カットされる。彼は無音の中で繰り広げられる会話だけを楽しんでいるようだ。

「じゃあ“明神水産”のCM知らないんですか?」
「知りませんねえ」
「お悩み相談のコーナーが始まると、あーもう昼の12時だなって思ったりしないってこと?」
「しないですねえ」

そういえば、ラジオ好きのアイドルが「わたしがラジオを開くときは……」と言っていて驚いたことがある。彼らにとってラジオはアプリと同じで、“つける”ものではなく“開く”ものなのだ。

便利になったとはいえ、チューナー……いや、ラジカセに慣れ親しんだわたしとしてはラジオが“コンテンツ”という認識をされつつあるのが少し寂しくもある。

それにしても。今だにダイヤルを回し、電波を探してラジオを聴いているなんて、まるで原始人の気分だ。

しまお・まほ●エッセイスト、漫画家。1997年『女子高生ゴリコ』でデビュー。著書に『マイ・リトル・世田谷』。

『クロワッサン』976号より

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