「ラジオはね、CMが面白いのよ」
ラジオ好きだった祖母の口グセ。小学生のわたしは、夜更かしな両親の代わりに食事を用意してくれていた祖母と一緒にラジオを聴きながら朝食をとるのが常だった。トースト、ジャム、スクランブルエッグ。祖母とわたし、黙ってラジオに耳を傾ける朝は会話を交わさずとも、二人の間が深まる時間だった。
ラジオCMは昔も今もほとんど変わらない。流行り廃りもない。ラジオコントのようなものがあったり、企業の名前を連呼するだけなのにそのメロディーがやけに耳に残ったり。10年以上変わらないものもある。映像がないぶん、音と言葉の遊びが楽しい。
わたしの母は写真家。時折現像作業のため家にある暗室に籠る。暗室から聴こえるのも、またラジオ。くぐもった音でどんな内容かわからなかったけれど、ある音がすると巣から出てくるクマのように、母は暗室のドアを開ける。
「よーこーはーま、そご~♪……正午です」「シューカンシンチョーは、きょー発売です!……3時です」
明かりを点けられない部屋で、母はラジオの時報を時計代わりに昼食とおやつの時間に休憩をとるのだ。この時報がわたしは大好きだった。母と一緒に昼食を食べられる。母の顔を見ることができる。
ラジオリスナーそれぞれに、それぞれのCMがある。CMの登場人物がどんな顔でどんな髪型か、どんな場所で、どんな格好で話しているか全て聴く人次第。人の数だけCMが存在するなんて、とても不思議で面白い。