『短歌ご一緒しませんか』岡村靖幸、俵 万智 著──歌詞のプロ“岡村ちゃん”が挑む、短歌の土俵
文・門賀美央子
岡村靖幸。“シンガーソングライター/ダンサー”としてベイベと呼ばれる熱狂的ファンを魅了し続けてきた男。今も変わらぬ輝きと唯一無二の存在感を放つ彼が、オフィシャルサイト「DATE」のファンクラブ向けコンテンツとして、歌人・俵万智を講師に迎え、3年半にわたって短歌に取り組んだ。それをまとめたのが本書だ。
一見、なんの接点もないように見える二人だが、実は世に出たのはほぼ同時期である。俵さんの出世作『サラダ記念日』は1987年の発表、岡村ちゃん(ファンは愛を込めてこう呼ぶ)のデビューは1986年。1980年代後半、バブル景気の熱気に煽られ、ポップカルチャーが百花繚乱だったその時代に、俵さんは短歌の可能性を一気に広げ、岡村ちゃんは日本語ファンクに一つの最適解をもたらした。彼らは、各々の分野で日本語の新しい扉をこじ開けた生けるレジェンドなのだ。
そんな二人がコラボするというのだから、おもしろくならないわけがない。しかも、岡村ちゃんといえば、恋への憧れや青春の光と影を歌詞にし続けてきた人だ。これはもしかして、いきなりとんでもない才能を見せつけるのではないか……と思いきや、意外にもなかなか苦戦するのである。
歌会は、岡村ちゃんが事前に出された題詠に沿った短歌を何首か詠んできて、それに俵さんがコメントする形で行われ、そのやり取りが対談形式で書かれているのだが、俵さんの指導は甘くはない。
ファン向けのコンテンツなのだから、岡村ちゃんの顔を立てて褒めちぎって終わり、でもよさそうなものなのに、決してそうはしない。どこが惜しいのか、どう直せば歌が生きるのか、具体的に手を入れていく。
岡村ちゃんは岡村ちゃんで、作詞家としての矜持を封印したかのように素直に添削を受け、指摘にうなずく。領域が異なるとはいえ、ずっと言葉と格闘してきた二人が真剣に向き合っているのだ。
また、本書をさらに魅力的にしているのが、DATE会員による投稿短歌だ。入選作には二人が直接コメントをするというファン垂涎のインセンティブが与えられた。自分の短歌が、あこがれの人たちの目に留まるかもしれないのだ。練りに練ったであろう投稿作には、俵さんですら思わず唸る秀歌が混じる。
たとえば、題詠「青」の回のこんな歌。
〈幼な子に戻った母の小さな手群青色のおはじき一つ(さらさ)〉
岡村ちゃんもデビュー40周年。ファンもそれだけ歳を重ねてきた。みんな、歌になる瞬間をいくつも重ねてきただろう。創作欲が刺激される詠み手も少なくないはずだ。それも見越してか、俵さんは折りに触れて実践的なテクニックから現代短歌の輪郭まで細やかに解説する。
本書が第一の読者として視野に入れているのはベイベたちだろう。でも、ファンだけのものにしておくには惜しい、とびきりの短歌入門書になっている。
『クロワッサン』1173号より
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