くらし

自宅で89日間世界一周。動物行動学が専門の松原始が気になる本「地球のかじり方 世界のレシピBOOK」。

  • 文・松原 始

自宅に居ながらにして、89日間世界一周。

文・松原 始(まつばら・はじめ)
東京大学総合研究博物館・特任准教授。専門は動物行動学で、カラスの行動と進化を研究。『カラスは飼えるか』ほか著書多数。

海外旅行に行こう! という時、やっぱり買ってしまうのが『地球の歩き方』。

その中で、特に繰り返し読んで暗記する項目が二つ。一つは現地語の「トイレどこですか」。もう一つは、現地の料理である。料理は言語と同じく、その国の歴史と文化に直結したもので……などという小理屈はさておき、知らないものはぜひ食べてみたいからだ。

ところが、どこかに行きたくても行きづらい世の中になって3年目。せめて気分だけでもと思い、各国料理を見よう見まねで作ってみることもある。だが、見よう見まねにも限界がある。インドネシアのガドガドのソースって何が入ってるんだ?

これが全然知らない国となるとお手上げだ。たとえば、ブルガリア人やエチオピア人が何を食べているかなんて、普段は考えたこともない。同じ地球の上なのに。

そんな時は、『地球のかじり方』の出番である。

「地球のかじり方 世界のレシピBOOK」地球の歩き方編集室(監修) 佐藤わか子(料理)学研プラス 1,650円

『地球の歩き方』シリーズは旅行者の激減によって深刻な打撃を受けた。そこで、さまざまな新機軸を打ち出したのだが、その一つが本書、編集部の情報を結集した世界のレシピ本である。

これ1冊あれば、旅行の楽しみの大きな部分を占める異国の料理を満喫できるのだ。

掲載された料理は62の国と地域から89種。しかも、レシピと解説つきで、材料は日本で入手しやすいもので工夫する親切さ。

ふむ、中国の老抽(ラオチュウ)(たまり醤油)は醤油に黒蜜を少し足して代用できるとな。そうか、角煮になんだか深みが足りなかったのはそのせいか。そして、各国語の「おいしい」も網羅(タヒチ語なら「モナモナ」)。もちろん眺めるだけでも十分に楽しいが、毎日1品作れば、自宅にいながらにして、3ヶ月で世界一周できるのである!

「行けないなら自分の家で」ーー

それがコロナ時代のニュー・ノーマルだった。

思い返せば最初の自粛要請の翌日、「飲みに行くなって言うなら、家で焼き鳥屋ごっこしてやる」と、鶏肉に串を打った。ならば、駅前の焼き鳥屋に留まらず、世界のどこへでもページを開いてひとっ飛びし、好きな国の料理を試したっていいはずだ。

ちなみに本書によると、ブルガリアのタラトールはキュウリを塩とオリーブオイルで和え、ヨーグルトを加えて水で伸ばした冷製スープ。夏にはぴったりだ。

エチオピアのクレープ、インジェラはテフという穀物を使うが、ライ麦粉とソバ粉を混ぜて代用できるという。この知識が役立つかは人によるだろうが、知るだけでも世界は広くなる。作って食べてみれば、なおのことだ。ちなみに、インジェラはちょっと酸っぱい。

もちろん、現地に旅行して本物を味わう楽しみも経験したいのだが、それはそれとして、おうちで食べ歩きというのも悪くない。

今夜は冷蔵庫の鶏肉と共にセネガルに行ってプレ・ヤーサにするか、それとも東南アジアへ飛んでシンガポール・チキンライスにするか。椅子に座ったまま事件の謎を解いてしまうのが安楽椅子探偵なら、この本を読むあなたは食卓トラベラーである。

『クロワッサン』1078号より

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