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『それでも息子を日本の小学校に通わせたい』山崎エマ 著──日本の小学校では「当たり前」が世界では……

読売新聞編集委員。書評面デスクを経て、現在は夕刊でインタビュー企画「ああ言えばこう聞く」を担当。鵜飼哲夫さんが紹介する一冊。

文・鵜飼哲夫

『それでも息子を日本の小学校に通わせたい』 山崎エマ 著 新潮新書 990円
『それでも息子を日本の小学校に通わせたい』 山崎エマ 著 新潮新書 990円

下駄箱で靴をそろえ、掃除はみんなで行い、子どもたちで給食を配膳する……この日本の小学校なら「当たり前」の日常を、ドキュメンタリー映画監督の著者は、東京のとある公立小学校で1年間、700時間も撮影し、映画『小学校~それは小さな社会~』として公開した。これが当たった。

日本の「当たり前」は、海外では「世にも珍しい光景」とされ、映画の短編版『Instruments of a Beating Heart』は2025年、第97回米アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。日本人監督による、日本を題材にした作品としては初の快挙となった。

「個人の尊重」と「自由」で有名な教育大国フィンランドでの評価も高く、こんな感想まで寄せられたという。「近年は、自分のことしか考えられない子どもたちが増えてしまっている。日本の小学校を見て、“コミュニティの一員としてまずどうあるべきか”を考える教育のお手本だと感じた」

1989年に英国人の父と日本人の母との間に生まれた著者は、大阪府の公立小学校に6年通ってから、神戸市のインターナショナルスクールを経て、米ニューヨーク大の映画制作学部で学んだバイリンガルである。本書は、いかにして映画『小学校』を撮るにいたったのか、その歩みを率直、快活につづった自分史である。

日本では見た目から「英語で喋れよ」とからかわれ、米国では、英語はペラペラなのにアメリカを知らない「外国人」と扱われる。そんな山崎さんは、成長するにつれて日本の小学校の特別さに気づいていく。40カ国の国旗が廊下に並ぶ「インター」は、日本の学校とはまるで違い、掃除の時間も運動会での一斉行進、ダンスもない。そこでは「静かに先生の話を聞ける子」ではなく、「自分の意見を主張できる子」が賢いとされた。

日本に窮屈さを感じ、渡米してからも発見があった。当たり前に普通のことをしているだけでも、「エマは、時間に遅れないし勤勉だ。周囲への配慮があって、責任感も強いのに、自己中心的ではない」と評価されたのだ。それは日本の小学校で身につけた習慣だった。キャッチコピーに〈6歳児は世界のどこでも同じようだけれど、12歳になる頃には、日本の子どもは“日本人”になっている〉とつけ、現在Netflixなどで配信中の映画は、こうした歩みから生まれた。

なにより面白いのは、様々な文化と自分との距離に戸惑いながら、それぞれの特性に学び、周りの力をうまく使って自己実現していく著者の姿である。よく言えば協調性があり、共感力も高いが、同調圧力の強い日本では「前例」が重視されるため、前例のない映画の撮影は断られつづけ、許可を得るまで30校ほど歩いたという。それを乗り越えるために使った秘策は、「日本で前代未聞のことをやるには、特例が必要だ」という気づきだった。どうやったかは本書に譲るとして、一児の母でもある著者が、本のタイトルに「それでも」という逆説をつけたのは、日本社会への鋭い批評でもあるのだ。

  • 鵜飼哲夫 さん (うかい・てつお)

    読売新聞編集委員

    書評面デスクを経て、現在は夕刊でインタビュー企画「ああ言えばこう聞く」を担当。

『クロワッサン』1169号より

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