『北京沸騰 天安門秘聞』著者 石井仁蔵さんインタビュー ──「社会を変えたいという真心は大切にしたい」
撮影・中島慶子 文・クロワッサン編集部
舞台は1989年の北京。ノンポリのフリーター・雷勇強(レイ・ヨンチャン)は、さまざまな出会いが繋がって、大学生たちのデモに参加することになる。天安門事件という歴史的事実を題材にしつつも純粋な歴史小説ではなく、事件の背後で展開されるサスペンスが軸になった、映画のようなスケール感の娯楽作だ。
チェスをめぐる青春小説『エヴァーグリーン・ゲーム』でデビューし、本書が3作目となる石井仁蔵さん。作家デビュー前は塾講師として20年間、小中学生に勉強を教えていたそう。分かりやすい指導を追求したその経験は、作品の緻密な構成にも影響を与えている。
「物事を伝えるには、その順序によって、子どもたちに伝わる・伝わらないの差が出るので、そこは無意識に気をつける習慣があります。それがいま、文章を書くときにも知らず知らずに生かされているかもしれませんね」
作中では、実在した政治家と、物語の鍵を握るフィクショナルな人物が交錯する。歴史の表舞台だけでなく、裏側で懸命に生きる“名もなき群衆”の姿が描かれているのが特徴だ。中でも登場人物の一人、真面目な北京大学生・景秀林(ジン・シウリン)には、石井さん自身の視点が投影されているそう。
「天安門事件自体は、正直、未熟な戦いでもあったと思うんです。行き当たりばったりでこれは成功しないよという冷めた目線がある一方で、社会を変えたいという無謀なまでの真心は大切にしたい思いもあって。それを象徴する存在として秀林を描きました」
対照的に主人公の勇強は正義感で猛進するタイプ。彼がデモに関わるきっかけでもある女子学生の強姦事件では、犯人探しに怯む学生を叱り飛ばすシーンがアツイ。
〈政治がどうだの言う前によ、近くで苦しんでいる奴がいたらすぐに動いてやるってなんで言わねえんだよお前ら。強姦魔の二人ぐらい捕まえられないで国を変えるだのなんだのほざいてんじゃねえバカ!〉
女性を襲うというのは、弁解のしようもない絶対悪
ところで石井さんの作品には、女性の暴力被害の設定が少なくない。その意図はあるのだろうか。
「悪というのは描き方が難しくて、人殺しにしても、いろんなバックボーンがあって同情を誘うような事件もある。でも女性を襲うというのは“弁解の余地のない絶対的な悪”なので、もう容赦なくぶっ叩ける。ちょっと野蛮ではありますが、そういう狙いはあります」
政治的背景を持つ複雑な悪役とは異なり、ためらいなく断罪できる存在は読む側にもカタルシスを感じさせる。そんな綿密な手法により、つい物語に没頭してしまう。
「中国の小説ではありますが、読み方によっては現代日本の話として捉えられる要素も込めています。社会や政治に興味がある方はそこを見所にしてもらいたいですし、そうでなくても人間ドラマやサスペンスとして楽しんでいただけるはずです」
『クロワッサン』1169号より
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