『多類婚姻譚(たるいこんいんたん)』 著者 凪良ゆうさんインタビュー ──「今の結婚は難関中の難関だと思っています」
撮影・中村ナリコ 文・クロワッサン編集部
凪良ゆうさんの2年半ぶりの新刊は、現代を生きる5組のカップルの結婚・婚姻にまつわる連作集。主人公たちはセクシャリティやジェンダー、成育環境、世代と多くの分断のなかで幸せを模索する。まずは今の結婚の複雑で困難であることに驚かずにはいられない。
「本当に、結婚は難関中の難関だと思っています」
SNSの普及で幸福が数値化・可視化されがちなことも主人公たちの悩みを生む。特に印象深いのは「Beautiful Dreamer」の、派遣社員の花織の物語。インスタグラムで充実した日常を発信しつつ、派遣先の社員である恋人・恵斗との結婚話が進まないことに苦しむ。
「花織は今どきの若い女性ですが、女性が経済力を得にくいのは今に始まったことではなく、社会構造的にずっと続いている。花織が自分に足りない経済力を結婚で補おうとするスタイルというのは、実はトラディショナルなことなんです。だからクロワッサン読者にも彼女の気持ちがわかってもらえるのでは。私も同じ女性として将来への拭えない不安や、それで結婚に夢を抱いて希望を見出してしまうのは覚えがある感情です」
今は婚活女子という言葉もある。
「少し嫌な感じに見られている言葉ですよね。彼女たちも掘り下げていけば止むに止まれぬ事情がある。そういうところを救いたいと思っています」
今どきな悩みの根底にある普遍性を、凪良さんは優しい筆致で描く。
女性の権利、男性の立場。どちらを書くことも欠かせない
いっぽう別章「Position Talk」では、会社の同僚であり議論好きなフェミニストの婚約者・朱里に、女性が社会で受けてきた抑圧を責められる律が主人公だ。
「結婚というと女性視点の物語が多くなってしまいますが、今回はフェアに男性の視点も書きたいと思いました」
自身にも気づきがあったという。
「この章の担当編集者が20代半ばの男性だったのですが、律を『彼は全然朱里の気持ちがわかっていない。朱里の意見が正しい』と言うんです。私は勝手に今の男の人ってしんどいんだろうなと思っていたんですけど、彼は『しんどくないです。物心ついたときからそういう時代だったので当たり前』。それで律の年齢を当初の20代から少し上に再設定しました。男性にもいろいろな方がいますが、確実にそういう新しい考えの人が存在してきたのはすごいこと」
凪良さんは本屋大賞を受賞した『流浪の月』『汝、星のごとく』などでも、異なる人物の目線から物語を編むことが多い。誰もが幸せを求めながらもままならない現実があること、その複雑性と哀しみを構築する。
「小説を書くのは自分の価値観に依るもの。それを揺るがせてしまうと書けないので、これからもしっかり持ちたいです。いっぽう新しい考え方についてもアップデートしていかないと、ですね」
『クロワッサン』1168号より
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