『こんこん』 著者 水沢なおさんインタビュー ──「顔も名前も知らない人を好きになる」
撮影・北尾 渉 文・堀越和幸
タイトルのこんこんとは、きつねの名前。こんこんは神奈川県の遊園地〈スプリングパーク〉のキャラクターだ。静岡県在住の主人公のまどは、仕事を終えると月に3〜4回は、いそいそと車を飛ばして着ぐるみのこんこんに会いに出かける。それはまどが“中の人”に恋をしてしまったから。どんな着想からこの作品が生まれたのか、作者の水沢なおさんに聞いた。
「人と親密な関係を築こうとすると時に傷ついたり傷つけたりと居心地の悪い瞬間がどうしてもある。では、どうしたらもっと素直に誰かを愛せるようになるのかと考えた時に、かわいい着ぐるみが対象だったら、ありのままの自分でいられるかもしれないと思いました」
さらに、SNSなどでテーマパークが好きな人の書き込みを読むと、こんなことが書いてあった。
「同じ着ぐるみのキャラクターでも一度会ったことのある中の人はわかる、と言って応援する人がいたんです。自分には衝撃的で、そのこともヒントになりました」
ひとつになるとは、パレードの、あの一瞬
大きな耳にふわふわなしっぽが特徴のこんこんは、わずかな身長の差やさりげない対応の違いで、中に別の人が入っているのがわかる。意中のこんこんのことをまどは“結晶”と呼ぶ。結晶には3〜4回に1回くらいの確率でしか会うことができない。
「ほかのこんこんとは違って、結晶だけは群衆の中からいち早く自分を見つけ出してくれるから、まどはそれで存在意義を感じる。単なるキャラクターとしての優しさだけではない、愛みたいなものを結晶から感じ取っているんです」
その一方でまどは、マッチングアプリで知り合った男性、ひらくと付き合ったりもする。が、それはひらくが155cmという低身長で、もしかすると実はこの人こそが結晶なのではないか?という可能性を探ろうとしているから。
「ひらくはひとつになりたい、とまどに迫りますが、それは性的な意味合いが強い。一方のまどにとってのひとつになるとは、自分と相手との境い目すらない、魂と魂が溶け合うような瞬間のことです」
やがてまどはある日の夜のパレードで、キャストの腕をかいくぐってこんこんに抱きついてしまう。こんこん、かわいい。こんこん、大好き。係の男性に制止されながらも、閉園後に最寄りの駅前に来てほしい、と哀願するが……。
小説では自分の“外側と内側”という内省が繰り返される。
「外側とは体のことで、それがあるから自分は怖いのだと思う。体があるから自分は不透明な存在。体があるから常に誰かに見られていて、きっと何かを思われている」
反面、〈顔も名前も知らない人を好きになるのは心地よい〉。
「ひとつになるのはとても難しい。けれども、着ぐるみが相手の透き通った欲求は、まどにそれに近い感覚を味わわせたかもしれない」
切実にして純粋な愛は、ラストの意外な展開へと向かっていく。
『クロワッサン』1167号より
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