美しいアニメーションで蘇る愛と運命の物語ーー劇場アニメ『ベルサイユのばら』
文・兵藤育子
劇場アニメ『ベルサイユのばら』
舞台は18世紀のフランス。近衛連隊長を務める男装の麗人オスカルと、隣国オーストリアから嫁いできた王妃マリー・アントワネットらの愛と人生を描く、少女マンガが原作。1972年から73年にかけて連載され、現在累計発行部数2000万部を超える不朽の名作が、50年以上の時を経て劇場アニメに。歌による豪華な演出にも注目!
多くの人が夢中になったであろう、少女マンガの金字塔『ベルサイユのばら』。革命期のフランスを舞台に、おのおのが信じる道を突き進む物語は、TVアニメや宝塚歌劇団による舞台などさまざまな形で語り継がれてきた。連載開始から半世紀以上の時を経て、そんな唯一無二の名作とスクリーンで再会できるのだから、期待が高まらないわけがない。監督を務めた吉村愛さんも、やはり“ベルばら”ファンのひとりだ。
「親戚のお姉ちゃんの部屋の本棚にあったマンガを読んだのが、ベルばらとの最初の出合いです。私は大阪に住んでいたのですが、宝塚が近いこともあって舞台を通してさらにどっぷりハマってしまいました」
劇場アニメにしていく最初の難関は、壮大な物語を2時間ほどの尺にどう収めるかという点。絶対に入れたいシーンやセリフが、原作を愛するスタッフそれぞれにあったため、苦渋の選択だったそう。
「ファンの多いオスカルは当然外せませんが、原作の前半部分ではマリー・アントワネットが主人公として描かれています。なのでこの2人の女性の生き方を主軸にすることで、恋愛要素も戦闘要素も描けるだろうと考えました。泣く泣く落としたシーンにある大事なセリフを、ほかのところに持ってくるなどして感情のラインをつなげて、原作の印象を崩さないよう工夫しています」
一方で原作を読み込むことで見えてくるような、キャラクターの意外性もしっかり表現している。
「男装の麗人オスカルは、とにかく耽美でかっこいいイメージですが、実はわがままでケンカっ早くて、お酒も大好き(笑)。人間味のあるところが身近に感じられたので、聖人君子ではない一面も描きたいと思いました。アントワネットの天真爛漫なだけではない、王妃としての気品やプライドなどもそうですね」
時代を超えて愛され続けているだけに、現代にも通じるような普遍的なテーマを内包している本作。
「少女マンガの美しくキラキラした世界観を大事にしていますが、ストーリー自体はとても骨太な人間ドラマです。抑圧されながらも自我に目覚め、自らの人生を選び取っていく姿に、時代を問わず人生に迷う人は共感できるはず。そしてその選択が正しいかどうかは関係なく、信念を持って生き抜く様は本当に素晴らしいので、ぜひ劇場アニメを通しても感じてもらえるとうれしいです」
左から
アンドレ・グランディエ
ジャルジェ家に仕えるオスカルの従者で幼なじみ。平民ではあるが、オスカルには幼い頃から友人として対等な関係を求められてきた。
オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ
由緒ある貴族で、将軍家の跡取り“息子”として育てられる。若くしてフランス近衛連隊長となり、マリー・アントワネットの護衛を務める。
マリー・アントワネット
オーストリアの女帝マリア・テレジアの娘。ルイ16世の妃になるため14歳でフランスへ。天性の魅力を持つ生まれながらの王妃。
ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン
スウェーデンの伯爵で、オスカルを親友として慕う。パリの仮面舞踏会で、孤独を深めるアントワネットと運命の出会いを果たす。
原作:池田理代子 監督:吉村愛 脚本:金春智子
キャラクターデザイン:岡真里子 アニメーション制作:MAPPA
声の出演:沢城みゆき、平野綾、豊永利行、加藤和樹
東京・TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開中。
『クロワッサン』1134号より
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