【研ナオコさん】ソープと介護を通して描く 祖母と孫の、出会い直し──映画『うぉっしゅ』
撮影・五十嵐一晴 ヘア&メイク・堀ちほ 文・兵藤育子
この映画で“認知症が進んだ80代の祖母”を演じた研ナオコさん。オファーをもらった際は、「妥協するなら出ません」と返事をしたそう。
「内容や役柄はもちろん、監督が若くて代表作がまだないのがいいなと思って、条件をつけたんです」
ソープ店で働く加那は入院した母に代わって、1週間だけ祖母・紀江の介護をすることに。そして祖母宅とソープ店を行き来して、どちらの場でも人の身体を洗う生活が始まるのだが、紀江は疎遠だった加那を覚えていない。それどころか、毎日顔を合わせるたびに“初めまして”の関係に戻ることに虚しさを感じつつも、「どうせ忘れる」祖母に対して素直な気持ちを打ち明けられるように。
「私は女優さんじゃないから、役作りっていうものができないんです。台本も読めば読むほど新鮮味がなくなって、わからなくなっちゃうから、1回だけ読んだら素の状態で現場に行って、その場で言われたことをぱっとやる感じです。『横になっていてください』って言われたら、反抗せずに『はーい』ってね(笑)」
岡﨑育之介監督も「認知症の役を演じること自体が引き算といえるから、作り込む必要はない」とアドバイス。一方で研さんは、現場の雰囲気や人の動きをよく観察していた。
「育ちゃん(監督)はね、スタッフに任せないで自分が率先して動いちゃうんですよ。監督はもっとドーンと構えていたほうがいいよって言ったんですけど、『はいっ!』って返事をしてまた動いてる(笑)。でも距離をまったく感じさせないところが、私としてもやりやすかったです」
本作のテーマである認知症は、いまや、誰にとっても他人事といえない切実な問題だ。小学生のときに、祖母の介護をしていた研さんは、この映画がより多くの人にとって気づきになってほしいと思っている。
「うちの場合、両親が働いていたので、学校から帰ってくると私くらいしか祖母の面倒をみる人がいなかったんです。寝たきりのおばあちゃんが床ずれをしないよう薬を塗ってあげたり、おむつを替えてあげたり、当たり前と思ってやっていましたね。今は時代が変わって介護にもいろんな方法があるけれど、相談できる人が身近にいると安心ですよね」
研さんは今年で芸能生活55周年。今、仕事を選ぶ際には、「応援」についても考えるという。
「大御所といわれる監督のところにだけ役者が集まっていたら、若い人が育たないじゃないですか。もし私がお役に立てるのであれば、これからの人と仕事をして、ひと押ししてあげたいんです。だからまだまだ落ち着いていられないですね」
『うぉっしゅ』
監督を務めた岡﨑育之介は、永六輔の孫。認知症を患った自身の父方の祖母を目の当たりにして、本作を企画。ソープと介護の思わぬ共通点に着目した、ポップで温かなエンタメ作品となっている。
出演:中尾有伽、研ナオコ
監督・脚本・企画:岡﨑育之介
音楽:永太一郎
5月2日(金)より東京・新宿ピカデリーほかにて公開。
『クロワッサン』1140号より
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