【室井 滋さん】誰もが翻弄される魅惑の街、京都の“本音と建前”とは──映画『ぶぶ漬けどうどす』
撮影・メグミ スタイリング・斉藤房江(きもの 円居) 着付け・斉藤房江、長谷川裕子(きもの 円居) ヘア&メイク・鈴木将夫(MARVEE) 文・兵藤育子
着物姿でさっそうと現れた室井滋さん。映画『ぶぶ漬けどうどす』でも、登場するほとんどのシーンで着物を身につけている。それもそのはず、京都で450年続く老舗扇子店の女将の役を演じているのだ。
「着物はわりと着る機会が多く、全然苦ではないのですが、初日のリハーサルで一日中正座をしていたら、足が折れそうなくらい痛くなっちゃって(笑)。女将さんになるのは、そういう所作ひとつ取っても大変なんだろうなと早々に痛感しました」
タイトルになっているのは、知ってのとおり、客人に帰ることをやんわりと促す京都の表現。日常で使われているかどうかはさておき、この言葉に象徴されるような京都人の本音と建前を面白おかしく描いている。
「大抵の男性は、京都のはんなりとした女の人が好きですよね。同じお酒をついでもらうなら京都の女性がいい、みたいなイメージがありそうじゃないですか(笑)。でも女性の場合、私もそうですが特に『クロワッサン』の読者世代の方々は、京都に対する憧れも強いけれども、知るほどにちょっと気をつけなければと思うことも案外多いのではないでしょうか」
主人公の澁澤まどかは、言ってみればまだそういったことに気が回らず、“京都が好き!”という思いだけで暴走してしまう若い女性。フリーライターの彼女は、かの扇子店の長男と結婚し、京都の老舗の暮らしぶりをコミックエッセイにすることに。室井さん演じる義母や街の女将たちに“ヨソさん”扱いされても意に介さず、暗黙のしきたりのあるコミュニティをかき回していく。
「女将なので、常に折り目正しく、きちっとしていなければという気持ちがあったのですが、そうすると面白みがないというか、遊びのない感じになっちゃうんですよね。冨永昌敬監督は、そんな私の迷いに気づいたのか、置いてあったみかんを渡すとき、放り投げてみるようにという演出をされて。そんな雑な動作をやってもいいんだって驚きつつ、監督も自分で指示を出しながら笑っていて、女将の素の部分を出すという意味でも、とても助けられました」
住居兼店舗のロケ地となったのは、京都に実在する扇子店。偶然なのだが、室井さんが20年以上の付き合いのある店なのだそう。
「台本を読みながら、もしかしたらと気がついて、京都に呼ばれていると思いました。おくどさん(かまど)があるとても素敵な台所なんですけど、元女将じきじきに火のくべ方などをお手ほどきいただきました」
どこにも似ていない、唯一無二の街だから描ける人間模様。観たらきっと、京都談議をしたくなります!
『ぶぶ漬けどうどす』
京都の一番の理解者になろうと暴走した主人公が引き起こす、大騒動を描いたシニカルコメディ。好き嫌いは関係なく、深く頷かずにいられない“京都あるある”を、ユーモアたっぷりに活写。
監督:冨永昌敬
企画・脚本:アサダアツシ
6月6日(金)より東京・テアトル新宿ほかにて公開。
『クロワッサン』1142号より
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