『老い方がわからない』著者、門賀美央子さんインタビュー。「老いへの不安は、お金の心配がほとんど」
撮影・北尾 渉
「老いへの不安は、お金の心配がほとんど」
40代半ばのころのある朝、鏡の中の顔に見たことがないシワがあり、しかもそのまま永住してしまったーー。門賀美央子さんが老いをダイレクトに感じた、最初のきっかけだった。
「その後はもういろいろと、ですね。疲労の回復が遅くなったり、電気ケトルをコンロの火にかけてしまったり、それまでに経験のない衰えを実感しました」
ちょうど前作『死に方がわからない』の執筆中だったため、
「死に方のほうがひと段落ついたら(笑)、今度は老い方についてじっくり考えてみよう、と」
もともと年をとることに対しては、それほど恐怖感も危機感もなく「むしろ、やれることが増えていくという感覚がありました」と、ネガティブなイメージは持っていなかった門賀さん。
だが現実は決してポジティブになれる展開ではない。老いのロールモデルや反面教師はすんなり出てくるけれど、実世界では金銭、健康、住宅などなど、調べるほどにハードな問題が待ち構えていることがわかった。本書は、それらの問題ひとつひとつと丁寧に真剣に向き合い、そしてアグレッシブに取材した成果ともいえる。
個人で有料の体力テストを受けに行き(しかも結果良好!)、新潟まで「身寄りなし問題研究会」の研修会へ参加しに行き、幹細胞生物学者の八代嘉美さんには不老長寿についての話を聞きに行き。さらに〈疑惑を晴らす時が来た〉の章では、将来、認知症と誤診されるのを防ぐために、自身のADHD(注意欠如・多動症)の診察も受けに行った。
「好奇心は旺盛なほうなので、一度調べ始めるといろんなことが気になる」という門賀さんならではの、微に入り細を穿ちつつもユーモラスなレポートは、読んでいるだけで元気になってくる。
次作は、老後にも欠かせない人とのつながり方がテーマ。
自らの将来のみならず、〈私に悠々自適の年金生活などやってこない〉日本の財政構造にも深掘りした取材を経て、改めてお金は深刻な問題だと思ったそう。
「老いの不安の中では、お金の心配がほぼ9割を占めると思います。残り1割は健康面ですが、働けるかどうかということにつながるから、そういう意味ではお金が10割かもしれない。人間の不幸はほとんどがお金で解決できるので」
お金さえあれば、幸せではなくても不幸にはならない。しかし、これのみが結論ではない。
「実はこの取材でやり残したことがあって、それは人間関係についてなんです。老いれば老いるほど、自分を支える地盤は作っておかなければいけないと痛感したものの、私には無理、と今回はギブアップしてしまった。だから次作では、人とのつながり方について本腰を入れて取り組んでみようと思っています」
わからないことの探求においては無双の門賀さんが本気であたる“つながり方”論、期待大だ。
『クロワッサン』1133号より
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