と、20世紀のスペインの詩人・ヒメネスが隠遁人生の伴侶としたロバの名前を挙げる。
内澤さんはかつて、千葉県で豚を飼育したのちに食べた経験を『飼い喰い 三匹の豚とわたし』(角川文庫)に記している。人間と動物の関係性に真摯に向かい合う意志が並大抵ではないのだ。
そのときに培われた観察眼とコミュニケーションのスキルにより、1対1の暮らしのなかで内澤さんとカヨは魂の深いところで共振するようになる。〈カヨの中には人間が入っているんじゃないだろうか〉〈ねえカヨ、おまえが人間だったように、私は昔ヤギだったみたいだよ〉
そんな1人と1匹の女子の、文学的で耽美な、内澤さんも認める共依存的な関係は、カヨの発情と出産によって変化していく。儚げな少女から逞しいお母さん、カヨの成長を内澤さんはつぶさに追う。