くらし

ぶらり地元の名所をご案内、林家たい平さんと歩く春の秩父。

都心からのアクセスも程よく、大人の日帰り旅行にうってつけの秩父。
その歩き方を、観光大使を務める落語家、林家たい平さんがご案内!
  • 撮影・青木和義 イラストマップ・大石さちよ 構成&文・堀越和幸

都心の池袋から特急で90分足らず。窓を流れるビルや民家の風景はいつの間にか大きな田畑や青い山々に変わり、やがて秩父にたどり着く。

「秩父連山に囲まれたこの地はコンパクトながらいろいろな魅力が詰まっています。武甲山(ぶこうさん)があって、荒川上流があって、春夏秋冬の祭りがあって……」

と語るのは落語家の林家たい平さんだ。この地はたい平さんが生まれ育った故郷でもある。

「そして34箇所の札所がある。そのせいか、外から来るお客さんに親切な人が多く、おもてなし気質が高い」

自分からは積極的に声をかけない。が、一度、助けを求められればーー。

「いつだったか、実家に帰ったら知らない人がお昼を食べていたんですよ。母親に誰?と聞いたら、東京からやって来て道に迷っていたから、お振る舞いしていたんだよって(笑)」

「秩父人は面倒見がいい」「ガイドブックもいいけれど、勇気を出して人に道を尋ねてみて。きっと一日ついてくるから(笑)」とたい平さん。

自然があって面倒見が良くて、路地や古民家が、懐かしいニッポンのような趣の秩父。さて、師匠、今日はこれからどちらに出かけましょう?

【摘む】話題のオリジナルいちご品種、 あまりんを摘みにぶらり農園に。

秩父駅から2つ先の和銅黒谷(わどうくろや)駅。駅から歩くこと4〜5分、やって来たのは、この季節、全国から多くの客が押し寄せるいちご農園だ。

和銅黒谷駅の駅舎。近隣にはかつて自然銅が採掘された和銅遺跡も残る。

「秩父はいちごの名産地、しかも甘いのが評判です」(たい平さん)

この日訪れた『和銅農園』では、全国の選手権で金賞を受賞したあまりんを中心に12の品種を栽培している。

「全国区の甘さです!」こちらのハウスだけで栽培されているあまりんはおよそ1万本。『和銅農園』にはこのハウスが合計9棟ある。

「あまりんの名付け親は実は僕。いちごと言えば、子どもの頃は砂糖やミルクをかけて食べたものですが、これは何もつけなくても中に練乳を注入したように甘い。秩父の自慢のひとつです」

15粒入りあまりんは3,500円。たい平さんはあまりんのキャラクターもデザインした(下幟写真)。

和銅農園

2代目社長、田口直樹さんによれば、あまりんは他品種に比べて一房になる数が少ないからそのぶん甘みが強い。「我が家で一番大切に育てられているのは、あまりんです(笑)」(田口さん)。

あまりんのいちご狩りは30分で5,000円(※いちご狩りはGWまで)。

●埼玉県秩父市黒谷457・3 
TEL.0494・25・4733
https://www.wado-nouen.jp/ 
秩父鉄道「和銅黒谷」駅より徒歩5分。

【占う】武甲山(ぶこうさん)の伏流水が流れる 秩父神社へぶらり、水占いを。

秩父駅を見守るように市街の中心に鎮座する秩父神社は、創建2100年を迎えた秩父の総社一之宮(そうじゃいちのみや)である。

「秩父の人には生活に根付いた馴染み深い神社で、小さい頃は鬼ごっこをしたりと、僕にとっての遊び場でした」

「さて、何が出るかな?」境内を流れる柞の禊川は秩父のシンボルとも言える武甲山の伏流水を引いたもの。武甲山は石灰の山で、長年の採掘により山様が変わるほど削り取られ、人々の生活を支えてきた。ところでおみくじは……なんと大吉です!

見所は本殿に施された、見事な彫刻。

「つなぎの龍や子宝 子育ての虎は、左甚五郎の作とされていて、最近、塗り直されてとても色鮮やかです」

この神社で近頃人気なのが、水占いだ。白紙のおみくじは、境内を流れる柞(なら)の禊川(みそぎがわ)に浸すと文字が浮かび上がってくる。さて師匠の運勢は……。

〝赤石〟と呼ばれる巨石。神が降り立った石とされる。幼少の師匠はそれを知らずに何度もよじ登った。

秩父神社

神社にある社殿は徳川家康公から寄進されたもので、埼玉県の有形文化財に指定されている。お元気三猿は日光東照宮の三猿とはまったく違う表情。こちらは〝よく見て、よく聞いて、よく話そう〞という願いが込められている。

●埼玉県秩父市番場町1・3 
TEL.0494・22・0262
https://www.chichibu-jinja.or.jp/ 
秩父鉄道「秩父」駅より徒歩3分。

【食べる】地元に帰ってきたら必ずこの味、 名物くるみ蕎麦の名店にぶらり。

「そうそう、小さな頃の遊びと言えば、くるみ拾い、というのもありました」

季節になれば、近所の川原には当たり前のように山ぐるみが転がっていた。

「その山ぐるみをすり潰してお出汁にしたものが名物のくるみ蕎麦です」

中でもお気に入りの一軒、『そば処 入船』では、お昼前から多くのお客さんが行列をなしている。

「そしてもう一つのソウルフードが、みそポテト。いもを天ぷらにして甘味噌をかけたもので、子どもはおやつ、お父さんはビールのつまみと、老若男女、家族みんなを満足させる料理です」

「蕎麦そのものも旨い!」「僕ら落語家は江戸前の蕎麦をちょっとだけつゆにつけて食べたりしますが、ここではそれは無理。 たっぷり浸して食べたい」。くるみだしは、もちろん食後の蕎麦湯わりも最高にいけます。

そば処 入船

本来のみそポテトはじゃがいもを天ぷらにするが、こちらでは里芋を使用。500円。

秩父神社近く黒門通りにある、長屋風の古民家の店は大正時代に建てられた有形文化財となっている。店内にはテーブル席と座敷がある。濃厚でほのかに甘いくるみの味が口の中に広がる、店一番人気のくるみそばは900円。

●埼玉県秩父市番場町11・4 
TEL.0494・24・5691
秩父鉄道「秩父」駅より徒歩5分。

美大で客員教授も務める、たい平さんの原点が覗ける場所。

たい平美術館は、たい平さんが生まれ育った実家の2階にある。

「父はここでテーラーを営んでいて、母は駄菓子屋をやっていました。両親は亡くなりましたが、何か形に残せないかなと思い、家を改装して2階を美術館にすることにしたんです」

室内には演芸場などに寄せている画や切り絵、キャラクターデザイン、『笑点』ゆかりの展示物が並んでいる。

この日、突然の本人の登場に、訪れていたファンは、わあ!と声を上げ、すかさず

〝何かあったのか?〟とリアクションした。さすがは師匠のファン。

たい平美術館

1階では、現在たい平さんのお姉さんが駄菓子屋を引き継いでいる。商品台には、チョコレート、ラムネ、ガム、ビッグカツなど、昔懐かしい昭和レトロなお菓子が色鮮やかに勢揃い。ぜひ、2階の美術館とセットで楽しもう。

●埼玉県秩父市東町26・14 
TEL.070・2220・8848
秩父鉄道「御花畑」駅より徒歩約5分。
*入館は予約制で、木曜11時~16時に電話で予約を受付。

【嗜む】老舗ならではの自家焙煎の香り、 本物のコーヒーを求めてぶらり。

薄暗い店内。飴色の調度品。入り口から差し込む細長い外の光。ここは創業50年を迎える老舗の喫茶店『珈琲道 ぢろばた』である。高校時代によく通った。当時は毎日、放課後の美術室に残って絵を描いていた。

「なのに美術部じゃない。ザ文化系という柄じゃなかったし。でも、美術部の仲間とはよくここで話しました。彼らは芸術談議、僕は女の子の話(笑)」

82歳のマスターが淹れる自家焙煎コーヒーは大人の本物の味がする。時を刻む古い柱時計。ここに来るたびにあの頃の鮮やかな場面が蘇る。

「コーヒーに心を感じます」"ぢろばた"とは囲炉裏端の意味。お店には実際に囲炉裏があって、この日、たい平さんは囲炉裏に炭をくべる仕事をなぜかマスターに手伝わされた。「マスターが元気で本当によかったよ」(たい平さん)

珈琲道 ぢろばた

メニューがコーヒーのみの自家焙煎珈琲店。本や道具で雑然とした店内は、まるで骨董屋さんに迷い込んだかのような雰囲気。珈琲道50年、笑顔の優しいマスターが、初めてのお客さんにも気さくに対応してくれる。

●埼玉県秩父市東町9・14 
TEL.0494・24・3377
秩父鉄道「御花畑」駅より徒歩5分。

【酔う】ぶらりパブに立ち寄って、 地元モルト酒で疲れを癒やす。

スコットランドにある有名パブの唯一の直営店が日本のここ、秩父にあると聞いたらびっくりするだろうか?

「日本酒の蔵元にビールの醸造所やワイナリー、さらには秩父ウイスキーを有名にしたイチローズモルトの蒸留所があったりして、実は秩父は酒処です」

「落ち着ける空間」/ カウンター、個室、畳敷きの和室に小上がりと使い方に応じてそれぞれの空間が選べるのがこちらの魅力。店長の岩崎光太郎さんによれば「パブには本来カフェとしての利用もあるので、お酒を飲まないご家族連れの食事でももちろん対応いたします」とのこと。なごめそう。

直営店の名前は『ハイランダーイン秩父』。もともとは空き家だった秩父銘仙の染料を保管する古い蔵を改装して、写真のような佇まいに生まれ変わった。

「フィッシュ&チップスやステーキなどの食事も充実していて、家族でも利用できる。足を運んでみてください」

秩父ウイスキーを世に知らしめた〈イチローズモルト〉3種。

ハイランダー イン秩父

2019年の秋に秩父は東町通りに誕生した店。ウイスキーだけで300種類以上、ビールやオリジナルのカクテル、ソフトドリンクなども楽しめる。午後3時から営業しているので、昼間から飲むことができる。

●埼玉県秩父市東町16・1 
TEL.0494・26・7901
https://www.highlanderinnchichibu.jp/
秩父鉄道「御花畑」駅より徒歩5分。

秩父といえばココでしょう! 2大スポットの魅力を師匠が解説。

この季節、芝桜が美しい羊山公園。全国からは多くの観光客が訪れる。

「今でこそ芝桜で有名ですが、昔はお花見がメインでした。秩父じゅうの人がここに集まってるんじゃないかというくらい賑わった。桜の名所でもあるので、その季節が来たら見逃さないで」

一方、ラインくだりで有名な長瀞は秩父の人にとっては定番の遠足コース。

「最近はキャンプのほかにもグランピングやトレーラーハウスなどのアクティビティがますます充実しています。大自然の中で、家族のどの世代も楽しめる、それが長瀞の魅力だと思います」

羊山公園

提供:秩父観光協会

武甲山の麓、羊山丘陵の斜面を利用して造られた公園。ピンクや白、紫などさまざまな色の芝桜を組み合わせたその景観は、〝花のパッチワーク〞とも呼ばれている。見頃は4月の中旬から5月上旬。

●西武鉄道「西武秩父」駅より徒歩20分。

長瀞岩畳

提供:一般社団法人長瀞町観光協会

荒川上流部に幅約50m、長さ約600mにわたって広がる大自然の観光スポット。折り重なる岩畳の間を流れる川と、周囲に迫る山々とのコントラストは圧巻。近年は天然氷で作るかき氷も名物に。

●秩父鉄道「長瀞」駅より徒歩5分。

林家たい平

林家たい平 さん (はやしや・たいへい)

落語家

埼玉県秩父市出身。武蔵野美術大学卒業後、林家こん平氏に入門して落語家に。国民的人気番組『笑点』などで活躍中。秩父市観光大使。
https://www.hayashiya-taihei.com/

『クロワッサン』1116号より

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