〈幼いころの記憶は、いつも父の暴力とともにある。〉
〈私は県営の団地に住んでいた。(略)この団地には、最貧困層が集う。〉
「つらかったことを書くのはしんどくないかと、聞かれることがあります。でも逆に『えっ? そうなの?』って。生まれたときから、人生が安定していた時期が1秒もなくて、標準値がこれなので」
逆に、書いたことでこの生い立ちこそが強みだと言われることも多く、勇気が湧いたと語る。
「『あなたには輝きが、価値があるんだよ』って言ってくれる人がいる。私の生い立ちって隠さなくていいんだとうれしくて」
本を読んだ読者からは、2通りの感想が届くそうだ。
「『貧困でこんな思いをしている人がいたなんて、全く知らなかった』という方。そして『自分も弱者側だしそう思っていたけど、“強者性”もあったと気づいた』という方」
ヒオカさん自身、国公立大学を受験する学力があったこと、親が貧しいなかでも知人に入学金を借り、大学に行かせてくれたという点では強者性もあったという自覚がある。
「自分は貧困から抜け出して発信する側になった、みなさんも私みたいになって!という気持ちでは全くありません。この本を書いたことで、新たな課題や社会の側面が見えてきたので、さらにもっと発信しなきゃいけない。自分の書く使命がより強くなってきた感じがします」
分野を絞らず、表現をする人になりたいという。
「格差問題で出てきたライターが、派手なカッコでコスメやお笑いを語ってもいいじゃないですか? それに、地味なスーツで、一つ結びにひっつめて……じゃなくて、ゴテゴテな人が貧困を語っても面白いと思いませんか」
カラーコンタクトの奥の瞳が力強く光った。