ふたりの店主が語り合う、コロナ禍で多様化するカフェの在り方。
それぞれの視点からカフェの在り方、理想の店作りまでを語り合う。
撮影・馬場わかな 文・松本昇子
高橋 アポイント制というハードルがあったとしても、本当に来たいと思って来てくださる方がいれば、お店をやる意味がありますもんね。
山藤 はい。世の中「いいね」が溢れていて、どれを選べばいいのかわかりません。だからこそ、いろいろ調べてたどり着いたマニアックな人たちをちゃんとお迎えするようにしています。
例えば私もカフェ好きでいろいろなお店に行きますが、やっぱり店主の持っている世界観を感じたいと思ってお店に向かう。
だからHEIGHTSに来られるお客様もきっとそうだろうと思って、営業日が少なくても問題ないんじゃないかと。
わざわざ営業日を目がけて来てくださるお客様は、感じ取ろうとするエネルギーが違う気がしませんか? 買い物の途中でたまたま寄ったり、喉が渇いたからちょっと休憩するのとは違う。それはすごく素敵なことだなと思っています。
〝好き〟にこだわって何かに偏った店づくり。
高橋 私も昔から、お店でお茶するのが好きですが、どちらかというとまずは人。どんな人が関わってメニューを作っているのかなとか、どんな人柄の店主なのかなとか。
私が好きなカフェや喫茶店も、店主の個性が色濃く出ていて、山藤さんがおっしゃったように、漂っている空気を感じたり、その空間で過ごす時間が大好きなんですね。
なので自分でもそういうお店を作りたくて、ようやく実現し始めたという感じなんです。これからはまた、コロナ禍で一度試みた「おひとりさま喫茶」を再開してみてもいいのかなと実は思っています。
山藤 おふたりで来られても、別々の席でそれぞれが自由に過ごしていただけたらいいですもんね。
高橋 まさにそうです。店名にもしたように、店からは月がきれいに見えるので、ただ月を見つめながら過ごす時間も楽しんでもらいたいです。私が考える「月の店」の魅力というのは、ひと息ついたり深呼吸したりして、ぼーっとしていただけること。なるべく新月、満月の時に店を開けたいとも思っているんです。
山藤 すごく素敵ですよね。
高橋 自分もそうですが、仕事を終え家に帰ると、すぐに寝てしまうという方もすごく多いと聞きます。もし帰宅前にひとりで来店して、ノートを開き、1カ月の自分の様子や思いを整理してみることができたら。ほんの1時間でも、自分自身と向き合う時間はとても大事。私も“ひとり喫茶”がすごく好きなんですよ。
山藤 いいですよね。職場でも家でもない場所で内省するのは。
高橋 お酒を飲む場所でもいいけれど、ひとりでケーキとコーヒーでひと息つく時間は格別です。お客様の様子を見ていても同じように使ってくださっていて、改めてこの店をやってよかったと感じています。
山藤 好きなものを共有できるってうれしいですよね。私たち自身も救われるところがあります。
高橋 最近ではそんなふうにひとりで個性的なお店を始める方も、徐々に増えている気がします。
山藤 私がひとりで店を営むうえでひとつ大切にしているのは、何かをカテゴライズしないこと。大人になると経験も増えるので、枠にはめてしまうとそこから出るのは思いの外、大変です。自分自身もそういう部分があるので固定観念にとらわれず、心もからだも柔らかくいることが大事だと考えています。ほら、肌も硬いと水分が入っていかないですし、柔らかければ栄養も吸収しやすい(笑)。
高橋 たしかに! カフェにはにぎやかにおしゃべりを楽しむお店ももちろんあります。逆にひとりでリラックスするお店もある。それをお客様自身も選ぶ時代なのだと思います。
山藤 家でも職場でもなく、人が淹れてくれた美味しいお茶やコーヒーでリラックスする場所って本当に素敵です。だからこそお店との距離感を適度に保ちつつ過ごす、特別な心地よさを大切にしたいですよね。
高橋 そのためには、私たちも常に機嫌良く、お客様をお迎えするようにしないと。
山藤 ひとりでやっている店なのに、店主がご機嫌じゃないと、お客様もつらいですもんね。私はせっかく予約までして来てくださった方をガッカリさせたくはないので、100%の気持ちでおもてなしします。
高橋 はい。以前の営業スタイルではキャパシティを超えてしまってダメな自分も痛感しました。それを続けていくのも大変だったので、不定期営業にしてみてよかったです。
さまざまな営業スタイルに変わりゆくカフェの現在地。
山藤 お店としては営業日が多いほど利益は上がるじゃないですか。それを少なくして営業を減らすのもすごく勇気がいることですよね。みなさん葛藤があると思います。
高橋 ひとりだからこそ、うまく営業のバランスを取ることも大事だと思っています。それが私の場合は通販。もともと雑貨屋出身なので、ものづくりは好きなんです。作るのも、売るのも、接客も好き。好きなことだけできているので、今はとても楽しくて。
山藤 お客様はグッズを使うことでお店での時間を思い出すこともできるのでうれしいですよね。これからの時代は、もっと自由で、さまざまなスタイルのお店が増えていくと思います。
みんながいろんなことを調べられるようになったからこそ、どんどん細分化して、シンパシーを感じられるもの、目指すものをある意味見つけやすくなった。
そのぶん提供する側の私たちは、お客様によりわかりやすく、指し示していく必要があります。そうすることで、お互いにいい気持ちで過ごすことができるような気がします。
高橋 いつどんな時でも営業しているという、安心感を提供しているお店も素晴らしいですし、そのときの自分が欲するお店を見つけていけばいいということですね。
山藤 お互いの思いがフィットすればいいだけの話ですものね。何に価値を見出すのかを、自分自身で決められる時代です。物や人や場所との関わり方が大切だと、みんな気付き始めているんじゃないでしょうか。
高橋 接客する側、される側。過ごす時間や経験。そこでしか感じ得ない豊かさを大切にしていきたいですね。
『クロワッサン』1078号より
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