くらし

介護からお国柄が見えてくる、世界のユニークな介護施設。

国が違い、人も違えば、バックグラウンドは多種多様。
文化や制度、性格や家族形態、宗教まで異なる、それぞれの国のそれぞれの人が選ぶ、人生の最終ステージとは。
  • 見聞きした人/文・殿井悠子 撮影・Gianni Plescia(ドイツ)、ユイキヨミ(オランダ)、滝川一真(デンマーク)

国民性が色濃く反映された色とりどりな取り組み。

すべての人に満足してもらおうとすればするほど、すべての人が不満足になるのが集団生活のむずかしいところ。等しく超高齢社会を迎える世界の国々では、介護施設にもお国柄が表れている。

個人主義の国フランスでは、ずっと以前から、横並びの老後ではなく、個人が望む老いの暮らしが優先されてきた。そんな流れもあって、古城を改築したロマンチックな老人ホームがちょっとしたブームに。城内は螺旋状に伸びる階段に輝くシャンデリア、広大な庭には馬が放たれ、丁寧に手入れされた薔薇が咲き誇る。最期まで機能性よりも美意識を求める姿は、なんともフランス人らしい。

【ドイツ】LGBTIの個性や感性を活かした ダイバーシティな暮らし

2012年、ベルリンに設立されたLGBTI向け24時間ケア付き介護施設を併設する多世代住宅『レーベンスオルト・フィールファルト』。住人の大半が男性同性愛者で、価値観の同じ仲間と共に気兼ねなく暮らしている。1. シェアルームのパートナーと。2. レクリエーションルーム。3. 24時間ケア付き介護施設の共有リビング。

日本の介護保険の見本となったドイツには、ゲーテやニーチェなど数々の偉人を生んだ古典主義の都ワイマールに、舞台芸術家のためにつくられた高齢者住宅がある。ホールでは入居者によるコンサートを定期的に開催。一日3食と15時のおやつ、夜食もあり、往年の大女優や現役男優たちがリベラルな環境で暮らしている。

ヨーロッパ初のLGBTI向けの施設では、ファッションショーがメディアで話題に。専門特化した施設が存在感を放つ。

命や老いは国家の責任ではなく個人の責任と考えるアメリカは、医療介護制度は原則自己責任・自己負担。高齢者層が集まる居住区(リタイアメントコミュニティ)が展開中だ。アリゾナ砂漠の真ん中にある世界初のリタイアメントコミュニティでは、約4万人の居住者が暮らす。入居条件は55歳以上で、同居する家族に19歳以下の子どもが含まれていないこと。敷地内には、ショッピングセンターやスポーツジム、ホスピスなど生活に必要な設備が整い、そのほとんどが居住者による自治組織で運営されている。

【オランダ】スーパーも映画館もある街のような環境で 認知症の人が不自由なく暮らす

『デ・ホーヘワイク』の入居条件は、24時間ケアが必要な重度の認知症であること。150の質問から4つのライフスタイルの棟に分かれて暮らす。1. 1.5haある敷地内は街のような造り。2. スタッフが私服で対応するスーパーマーケット。住人が支払いを忘れたらこっそりフォローする。3. ベーキングクラブの様子。一番人気はビンゴゲーム。

議論好きな国民性を持つオランダでは、医療介護制度にも国民の意向が色濃く反映され複雑な仕組み。

2002年には積極的安楽死が合法化し、認知症の兆候に気づいた本人が、自らの意思で安楽死を選ぶことができるようになった。認知症の人だけが暮らすビレッジタイプの「デ・ホーヘワイク」には、今も世界中から見学者が訪れる。

日本と同じ「中福祉・中負担」の社会保障と言われるオーストラリアは、ヨーロッパとアメリカの折衷型介護システム。開拓の歴史の中で、先進国の良い部分を取り入れてきた。
中でも、1980年頃から始まったホスピスケア(終末期の緩和ケア)の発展が目覚ましい。
牧師が運営する一軒家でアットホームな施設が多く、ここでは、無駄な延命や治療はいっさい行なわない。痛みやつらさ、死に対する恐怖を取り除きながら、その人らしく、穏やかに死を迎えるための準備がなされる。

日本の介護施設に暮らす男性からは、居場所がなくおとなしくしているという声も聞こえるが、オーストラリアではちょっとした家の修理や庭の手入れなどを自分たちでする習慣があり、工具が揃ったDIY用のガレージが男性入居者の溜まり場になる。
妻がラウンジでおしゃべりを楽しんでいる間、夫はガレージで椅子づくりという光景も。世間話から、日頃の悩みや身体の不調を把握したりするそう

明確な希望を叶える理想の終の住処を求めて。

こんなふうに、世界には個人個人のライフスタイルや価値観を大切にしながら、様々な介護施設が展開されている。いずれも国から与えられたわけではなく、民間の企業や団体による施設。競争原理の中で、市場のニーズに応える形で実現されてきた。

世界で最も高い高齢化率の日本で、あなたはどんな日本型の高齢者施設を描きますか?

幸福度が世界でもっとも高い デンマークは“All for One”。

国民のほとんどが「何かあれば、誰かに頼ることができる」という意識を持つデンマークでは、収入の半分以上が消費税と所得税でなくなるが、大学卒業までの教育費、出産費、医療費、介護費が基本的に無料。

フェア精神が根付いている。オーガニックな食事を提供したり、10カ国の入居者を22カ国のスタッフでケアする多文化対応型の老人ホームもある。一方で、入居までの待機期間は長く、入居後の平均寿命が約1年という厳しい現実も。

建築の大家ヨーン・ウッツォンが設計した長期海外勤務者のためのホームで暮らす夫婦。

負担を引き受ける国民と介護責任を担う国。

国民が等しく必要な介護を受けることができるスウェーデン。

収入の半分近くを税金として支払うため、裕福な暮らしの人が少なく、ほとんどの家庭は定年まで共働きだという。制度が守る代わりに、職務内容は介護職に限らず法律で細かく決められている。

介護施設は、制度という縛りの中でケアの質を高めていく工夫が求められる。目下、高齢者の一番の問題は食べられなくなり痩せていくこと。食や予防リハビリに力を入れている施設が多くあった。

クリームやバターなど脂肪分の高い料理をシェフが調理、カロリー摂取を勧める。

『クロワッサン特別編集 介護の「困った」が消える本。』(2021年9月30日発売)

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