くらし

いくらかかる? 介護ライフとお金のこと。

介護の費用は、本人のお金をあてるのが基本。いわゆる「老後の資金」だ。
では、何にいくらぐらいかかるのだろう?
お金にまつわる情報を、ケアタウン総合研究所代表の高室成幸さんに教わりました。
  • 文・ 殿井悠子 イラスト・古谷充子

【いくらかかる? いくらかける? 介護ライフとお金のこと。】

親の生活費について収支を把握しましょう。

まず始めたいのは、親のお金について知ること。今後、介護にあてられる金額をつかむのは、介護を続けていく上で大事なことだ。

とはいえ、いきなり「うちには貯金はいくらあるの?」と聞いてもいぶかしがられる。最初は、1カ月の生活費を探り、おおまかな収支の把握を。「食は楽しみ。お取り寄せを楽しんでいるのね」「健康食品の購入が多い。体に気をつけているな」といった発見があるかも。本人が内容を忘れている自動引き落としなどにも注意を。

銀行口座を管理、資産を確認してみましょう。

親とお金の話ができるようになったら、通帳や印鑑の置き場所を確認しておこう。急な入院や認知症になった場合など、誰かが口座を管理しないと残高不足に陥ってしまうだろう。また、電気代や水道代も、払い忘れが続くとストップされることがある。

最近はAI化が進み、多くの銀行支店が閉鎖、ネットバンキングが進んでいる。親はどうしているのか聞き、自分でやるのが難しければ、子どもが口座を管理することも考えたほうがいいだろう。

親が元気だと増える「親貯金」を始めましょう。

介護費用は親のお金をあてるとしても、子どもが全く出さないわけにもいかないだろう。急に親が倒れたら駆けつけるし、それで仕事を休めば収入が減ることもある。入院ですぐに10万円が必要と言われたら厳しいときもある。

そこでおすすめは、万一に備えて、月5000〜1万円程度の「親貯金」を始めること。なにごともなければ、そのお金を親へのプレゼントや帰省に使ってもいい。兄弟がいれば、声をかけていっしょに始めるといいだろう。

基本スタンスは「親の暮らしをサポート」。

ケガや病気で急に介護が始まる場合もあるが、多くは身体機能の衰えなどで今までできていたことが徐々にできなくなっていくケース。本人が自立を希望すれば、周りは支援する役目だと意識しよう。先回りしてやりすぎると、本人のやる気を奪いかねない。

「○○銀行の支店が閉鎖したね。私がキャッシュカードを預かって月々必要な分をおろしてこようか?」と理由を伝えて承認を得よう。親が「自分でやる」と言えば、ひとまず様子をみればいい。

(確認しておきましょう)介護ライフのバランスシート

すぐにすべてを把握しなくてもだいじょうぶ。できるところから明らかにしていこう。まずは、お金について親子で気軽に会話できる環境が大事だ。

(状況)

父80歳、母78歳、自宅で二人暮らし。子ども2人(姉54歳・子2人、弟52歳・子2人)。

近くの町に住む弟家族が月1回程度、様子を見に行く。姉は遠方で帰省は1年に2回程度。

親に確認しておきたいこと

・年金の額(振り込み額は税金や保険代を引かれている)
・金融資産(預貯金、株式、債権、投資信託など)
・不動産(関係書類の保管場所)
・ローンや借金の有無、あれば内容
・契約している保険の内容(生命保険、医療保険 など)、保険証書の保管場所
・住民税は課税か非課税か
・定期契約の有無や内容、支払い方法(通販やサブスク、 宅配サービスなど)
・百貨店の友の会や旅行積立などの有無
・歯科・眼科・皮膚科・泌尿器科・婦人科など、通院先の連絡先(診察券)
・いつも飲んでいる薬など(お薬手帳)

バランスシートを入り口にお金について話しましょう。

一度にやろうと焦らずに、親がわかることから取り掛かろう。無理に聞き出すと「財産狙い」と疑われるかもしれないので、「先々の心配を減らすため」と伝えよう。サブスクやネット、スマホ関係などはパスワード管理もしっかりと。また、通帳を撮影しておくと管理に役立つ。

兄弟との情報共有も忘れずに。今後のお金の管理は、誰が何をやるか決めておきたい。とはいえ、親の状況は変わるので定期的に情報交換し、柔軟な対応を。

【親の財布】

(収入)

(支出)

・月々の不足分は貯蓄をあてている。
・以前は年1〜2回、夫婦で国内旅行していた( 1回10万〜15万円程度)。
・父は車を運転するが、そろそろ免許を返上してほしい。
・持ち家なので固定資産税がかかる。今後、介護になったらリフォームが必要?

(資産)

【子どもの財布】

・現在は、ボーナスや貯蓄をあてている。
・子どもは大学生と高校生。学費の負担が終われば、その分を親のために使えると思っている。
・親が元気なうちに家を片付けたいので、今後は年3〜4回帰省したい。

(ケース1)訪問介護、訪問リハビリ、通所介護、通所リハビリを利用した場合

山田友子さん(仮名 )83歳

一人暮らし。脳梗塞の後遺症があり、歩きにくく、転倒しないか心配。リハビリも兼ねた散歩は、杖を突きながら。地域の活動に参加し、仲間とおしゃべりするのが楽しみ。

介護度【要介護1】
(区分支給限度基準額 16,765円)
地域区分:その他、自己負担割合:1割

一人暮らしだが、訪問介護とリハビリ、通所介護とリハビリの組み合わせで、ほぼ毎日、誰かに会っているので、寂しさや不安はあまり感じない。人と会うから化粧もして身なりを整え、話をするので頭も使い、気分も明るくなる。
食事は簡単な調理はできるが、荷物を持って長い距離を歩くのは難しい。近県に住む長男家族が日曜日に来たら、高い所の掃除や重い物の移動、食品の買い出しを頼んでいる。最近は1回分の食材がパックになったミールキットが簡単でおいしく、お気に入り。

遠方に住む長女は月1回、土・日に泊まりがけで来て、数種類のおかずをいっしょに作り置きする。

また、長女がネットで全国のおいしいものをお取り寄せしてくれる。届いたら電話で感想を伝え、お互いの様子を知らせている。

*この他に、住宅改修で浴室の手すりを設置した(自己負担1割)。

(ケース2)訪問看護、認知症対応型通所介護を利用した場合

中村剛志さん(仮名 )82歳

妻と二人暮らし。妻は体力が続く限り、自宅で剛志さんの介護をしたいと思っているが、自分も脊柱管狭窄症のため介護がつらい。子どもは2人いるが、ともに遠方で暮らす。

介護度【要介護3】
(区分支給限度基準額 27,048円)
地域区分:その他、利用者の自己負担割合:1割。福祉用具貸与の介護報酬は事業者の自由設定のため相場料金を設定

78歳ごろからアルツハイマー型の認知症の症状が見られ、2年前に妄想や徘徊が始まった。だんだんそれが多くなり、最近はコミュニケーションがとりにくい状態に。肥満のため、なにかあったとき、妻が一人で体を動かすのは困難。訪問サービスでは看護師さんが来て、夫の血圧や体調をみてくれるので頼っている。認知症が進み、以前のデイサービスでは受け入れが難しいとのことでグループホームが行う認知症対応型デイサービスに移った。

このまま続くと夫婦共に身体も精神的にもつらくなりそう。今後はショートステイを検討する予定。

妻も持病があるため、疲れると家事をするのが精いっぱい。夫の糖尿病食は宅配弁当を利用。自分は普通食を頼み、食べきれない分は朝食や昼食に回している。

高室成幸

高室成幸 さん (たかむろ・しげゆき)

ケアタウン総合研究所代表

ケアマネジャーや地域包括支援センターなどへの研修講師など、多方面で活躍。近書に『子どもに頼らない しあわせ介護計画』。

『クロワッサン特別編集 介護の「困った」が消える本。』(2021年9月30日発売)

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