くらし

タレント・山田雅人さん「腹の底から笑える介護は、ぼくが見つけた新しい芸。」

  • 撮影・岩本慶三 文・殿井悠子 イラスト・松元まり子

1.母の気持ち子知らずでいると見逃してしまうかも。 認知症のサインと気づき。

「母はぼくたち家族の世話や家事をするのが趣味でした。そのことに早く気づいて、孤独を理解できていたら」と山田さん。

できない、わからないことが増えても、それを子どもに言えない親は多い。山田さんの母親の場合は、冷蔵庫に同じプリンが20個、チョコレートが何十個、所狭しと入っていたことがサインだった。

「認知症の人は、3歳の子どもと同じだと先生に言われました。最初は決死の覚悟でオムツを替えていましたが、自分が3歳のときもこうして母にオムツを替えてもらっていたんだなと思うと、苦にならなくなって。どうしたらお尻が痛くないかなとか、イイうんちが出ると、腸の中がキレイになってよかったあ、と嬉しくなったりね」

2.叱るのは御法度。否定じゃなく気持ちイイことを伝えましょう。

山田さんが映画やデイサービスのスタッフから学んだことがある。

「叱(しか)ったらいけない。心を閉ざすんですって」

山田さんの母親は、認知症になってからお風呂嫌いになった。

「そんなときも、お風呂に入りなさいじゃなくて、入って気持ちイイ様子を小芝居するんです。お風呂に10分くらい隠れて、髪を濡らして出てきて『あ〜、ここのお風呂は気持ちイイわあ』って」  

汚いとか臭いといったマイナス表現もNG。認知症の人は記憶のBOXが閉じてるだけ。責められて傷つく感情は心に蓄積されていくという。

3.外食したり、お洒落に気を配るとプライドに火がついてシャンとします。

「母の昔からの知り合いがやっている焼きそば店に時々行くんです。すると、自分で食べるんですよ。プライドが復活するんですね」

デイサービスの人から教わり、マニキュアも塗るようになった。手は毎朝目にするので「色が変わった」と脳の刺激になるのだとか。

最近、山田さんが新しく取得した芸がある。モノマネだ。

「母がぼーっとしていると、チョンチョンってつついて『今こういう顔しているよ』って惚(とぼ)けた顔を見せる。そうすると笑うんです。腰を曲げて歩いている真似をすると、一生懸命姿勢を正そうとしたり。要介護3の認知症でもわかるんです、シャンとするんです」

4.家族は介護の素人と心得よう。 専門家やきょうだい、 ご近所さんとでワンチーム。

「介護はチームワークで取り組むべき」と山田さん。

「家族は介護の素人ですから。背負い込まないこと、そうしないと潰れちゃいます」

山田さんは、デイサービスのスタッフから色々なことを教わっているという。

「例えば、食べ物は目の前で切る。そうすると、これを切っているんだ、私はこれを食べているんだと脳に届くらしいです。母はいつもじーっと見ています。時々手伝ってくれたりすることも。あとは椅子からの抱き起こし方とかね」

ご近所づきあいや兄とのライン連絡も欠かさない。

「人の優しさに、日々感動。こうしたつながりは、介護をしないと出合えなかったですね」

5.情報は武器になる。 映画や本に解決のヒントが転がっていることも。

「認知症の母を追ったドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』を観て、徘徊対策を学びました。自閉症の人が見える世界を体感する映画『僕が跳びはねる理由』とか、在宅医療の長尾和宏先生の著書『痛くない死に方』(ブックマン社)なども参考になりましたよ」

「職業柄、自分が発信するのも仕事」と山田さん。

「はじめの頃、認知症を治そうと思って何回も同じことを言い聞かせていたら『何遍も同じこと言うな!』って母に言われて。これ、ネタです(笑)」

山田雅人

山田雅人 さん (やまだ・まさと)

タレント、話芸家

1983年より芸能デビュー。持ち前の語り調で、テレビやラジオで幅広く活躍する。2009年より、芝居でも漫談でも落語でもない、ひとり舞台「かたり」を定期的に公演。現在、年間約120本のステージをこなしている。

『クロワッサン特別編集 介護の「困った」が消える本。』(2021年9月30日発売)

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