くらし

常に身軽に、今住みたい場所へ。小川糸さんの軽やかで縛られない暮らし方。

ベルリンでの暮らしにひと区切りをつけて、昨年帰国した小川糸さん。住まいへの考え方、今後の展望も聞いた。
  • 撮影・豊田 都 ベルリン生活に関する写真提供・小川 糸 文・小沢緑子

暮らしの拠点を変えることに躊躇したことがないんです。

小川糸さん

小川糸さんが、2017年春から3年間暮らしたドイツ・ベルリンから帰国したのは昨年の3月末。

「当初は半年ごとに東京に戻るつもりでしたが、結局一年に一度戻るか戻らない程度に。築120年の古いアパートを借りて過ごしていて、住環境にも人との出会いにも恵まれ、自分らしく肩の力を抜いて暮らすことができました」

東京の家は新築で入居し、4年後、執筆に集中できるよう間取りを大幅に替えて2LDKに。「家具もオーダー。テーブルは引き出し付きです」

ベルリンに住むきっかけとなったのは、今から12年前、仕事で初めて訪れたときにそこに住む人と、街に溢れる自由をとことん謳歌しようという気概に満ちた空気感に惹かれたからだ。

以来、毎年夏の間はアパートを借りて過ごすようになり、「人生のある時期を日本から離れて暮らすのもいいのではないか」と思い、実行に移した

キッチンは移動し、大改修。調理台の下にコンセントをつけ、使いやすく見た目もスッキリさせた。

そもそも小川さんは、思い立ったらいつでもどこにでも行けるように“身軽に暮らす”ことを信条としている。

「暮らしの拠点を変えることに、構えたり躊躇したことがないんです。それよりも『今、ここに住みたい』と思ったら、その気持ちのほうを大切にしたいと考えています」

最初のリフォームで作った"冷蔵庫部屋"。音が気になる冷蔵庫を格納し、扉をつけて音を遮断。

ベルリンに暮らす前と後で、住まいに対する考え方で変わったことは?

「ベルリンのアパートは第二次世界大戦前に建てられたものを『アルトバウ(古い建築)』、大戦後に建てられたものを『ノイバウ(新しい建築)』と呼ぶので、築年数70年以上経つものでもノイバウなんです。かといって不便さを我慢しているわけでなく、水回りなどの設備は今の暮らしに合うように整えている。住まいも古いものを長く大切にすることを教わりました」

ゲストからは見えない「隠し棚」。

今、小川さんが住む東京の住まいは、2回に分けてリフォームをしている。

「冷蔵庫のモーター音が気になってきたり、小さな問題点がいくつか出てきて。その際、引っ越しより少しずつ改修して自分にとって使いやすく心地のいい空間に直していこうと思ったのは、ベルリンでの体験が大きいです」

1度目はリビングとキッチンの水回り、その数年後に寝室ともう1部屋を改修。また、それぞれのリフォーム中には鎌倉、次は表参道と一度住んでみたかった場所に仮住まいも実行した。

「どうせならと。その地に住んでみないとわからないことがあると思うので」

デスクを置いたワーキングスペース。壁には資料を置く棚を取り付けた。背後にはお昼寝スペース。

住まいで譲れない条件とは?

「自宅が仕事場でもあるので、まず静かな環境が第一。そう思って、東京の自宅は駅から離れた場所に選びました」

中庭に面していて、年月が経っても窓から見える風景が変わりにくい立地も気に入った理由だ。

「もうひとつ、決め手となったのがキッチンに生ゴミ処理機のディスポーザーと食洗機が付いていたこと。家事はやりだすときりがないので、頼れる部分は便利な機械に任せられるのがいいなと思って」

いつの間にか増えていたという鳥モチーフがあちこちに。「遊び心で壁をくり抜いて作ってもらった小窓にも、鳥が向き合ったデザインのステンドグラスをはめています」

実は今、新たに「住みたい」と思う場所ができて、準備中だという。

「八ヶ岳山麓に小さな山小屋を作り、東京と行き来しようと思っています。ベルリンにいたときもそうでしたが、自分にとって2つの拠点に右足と左足をそれぞれ置いてバランスをとる感覚が心地よくて、ちょうどいいんです」

小川さんの軽やかで縛られない暮らし方は、また新たなスタートを切る。

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