くらし

気づいたら継続していた私の習慣。角田光代さんが大切にする時間の話。

数々のヒット作を書きながら、その間にランやボクシングの”中年体育”に打ち込んだり。同じ24時間を角田さんはどう使っている?
  • 撮影・青木和義 文・一澤ひらり 撮影協力・輪島功一スポーツジム、やきとり戎西荻北口店

「 アフター5のために規則正しく暮らして。 」

仕事をするのは平日の朝9時から夕方5時まで。もう20年余、作家の角田光代さんは定時の執筆を続けている。

「物書きなのに会社員みたいだねってよく驚かれます。30歳の時に住まいと仕事場を分けてからずっとこの生活で、週末は仕事をしないんです。20代は不規則な生活でしたが、時間を決めたほうが私は安心して仕事ができますね」

そして夜は夫や仲間たちとお酒を飲みながら話をして刺激を受け、インプットする大切な時間。50歳になってからは仕事の開始時間を少しだけフレキシブルにして、二日酔いで起きられない時は遅くなってもいいことにした。が、コロナ禍でそれができなくなった。

「この1年は外飲みが激減して二日酔いも少なくなり、今は8時ぐらいには仕事場へ行っています。さすがに早く切り上げて休日にしか行かなかった映画館へ足を運ぶとか、散歩をするとか、予定外のことも取り入れてみようかなっていう気になっています」

夕方4時45分には片づけ始め、5時で終業。帰りがてら夕食の買い物をして、自宅で支度を整え夫と晩酌をする。

「料理が好きなので夜はちゃんと作ります。朝食7時、昼食12時、夕食7時って30歳の時から決めていて、この時間じゃないと気持ちが悪いんですよ。昨年はふわふわした感じ、世の中は現実感の薄い日々の連続でしたが、毎日をルーティン化していてよかったと思います。時間が決まっていれば、立ち止まらないですみますからね」

仕事場は別にあるが、陽射しが降り注ぐ自宅の書斎では、連載小説の校正などを。

音楽家の夫、河野丈洋さんは角田さんとは正反対の夜型人間。顔を合わせるのは夜からだそう。夫妻は数年前、マンションから新築の一軒家に愛猫のトトと一緒に引っ越した。家事は日々の料理と週末の掃除がメインで、イヤなことは一切しないことに。

「アイロンをかけるのが嫌いで、絶対にやらないって決めたんです(笑)。それでアイロンをしないでいい服を着るか、クリーニングに出すようになりました。自分の時間には限りがあると気づいてから、楽しくないことをするのは時間の無駄だと思ったんですよね」

掃除機をかけるのはやめてお掃除ロボットに、洗濯物は干さずに乾燥機に、食器洗いは食洗機にまかせることに。

「掃除といっても私は週末に床をフロアワイパーで拭くだけ(笑)。家事はものすごく楽になりました。自分に無理強いをしないことが大切ですね」

「マンション住まいとはまた違って、風がそよぐ外の風景を眺めながら掃除をするのって気持ちいいですね」

昨年までの5年間、角田さんは小説の執筆をせずに『源氏物語』の現代語訳にかかりきりだった。この仕事は現代人の感性にあった簡潔で歯切れのよい現代語訳として高い評価を受けた。そして昨夏からは読売新聞朝刊に小説「タラント」を連載している。

5年の間に小説の書き方をすっかり忘れてしまって、どうするんだっけ?って。いまは不安でしかないけれど、書いて書いて書くしかないですね。この連載が荒療治になって、書き終わったらそれがまた自信になるのかな」

自分の毎日の時間を守ること。それが言葉を紡ぎ出す力業を支える原点に。

「時は有限。楽しいことをしたいですね。」

「建築家の西久保毅人さんに設計をお願いしたんですが、間取りも壁の色も何もかもおまかせしました。書斎は開放感があって、とても居心地がいいんですよ」

角田さんが時間と上手に付き合うための3カ条

(一)仕事、食事は決まった時間にする。

(二)苦手なことになるべく時間を割かない。

(三)他人と自分を比べない。

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