自分がやりたいことに正直に。有元葉子さんの一人時間の楽しみ方。
撮影・中本浩平 文・一澤ひらり
「 大いなる自然のめぐり。その時間に身をまかせて。」
凛とした美しさを湛え、その暮らしぶりが憧憬の的になっている料理研究家の有元葉子さん。コロナ禍で海外や旅に行かれず、料理スタジオと自宅を往復する日々が続いた。
「イタリアにも家があるので少なくとも毎年2回、数カ月は日本を離れていたのですが、東京にいることが多くなって、ベランダの植物がすごく増えました(笑)。園芸店が大好きで、行くとつい買ってしまうんですよね」
ベランダのプランターには植える場所がもうないくらい、クレソン、ルッコラ、コリアンダー、カモミールなど、緑の野菜やハーブが栽培されている。
「サラダにするくらいの量は充分採れます。フレッシュでおいしいですよ。外食もしないので、常備菜やお漬物など、保存できるものも増えましたね」
朝の時間は新しい一日の始まり。清清しく迎えたいと心がける有元さん。
「毎晩、使い終わった台所は、シンクだけでなく、水切りかごも乾いたクロスで水滴を拭き取ってから休みます。何もないきれいな状態にしておけば、朝から気持ちよく台所に立てるし、新鮮な空気に満ちていてほしいんです」
すでに3人の娘も家庭を持ち、有元さんは20年近くひとり住まい。すっきりと片づいた空間は暮らす人の潔さが反映されていて、さぞや規則正しい生活かと思えば、オフの日は何の決め事もしないと話す。
「すごく自由ね。目が覚めたら起きて、今日はどうしようかなって考えます。その日のお天気具合で、晴れていればベランダの植物の世話をするとか、植え替えるとか。そうでなければ普段できない戸棚を丸ごと掃除するとか。この1年はそういう時間が増えました。それもまた楽しいんですよね」
可憐な少女のように笑う有元さんだが、そのスッと肩の力が抜けた軽やかさはどこからくるのだろう。
「自然の摂理の中で全てのものが循環し、時は進んでいきますから、その深遠なる命のめぐりに身をゆだねています。人間も地球上で動物の一種なのだから、もっと自分の感性に正直に生きていくことが大切なんじゃないでしょうか」
有元さんにとって、食べることや料理をすることは、これまでもこれからも、暮らしの真ん中にある。
「だから料理をすることはかけがえのないこと。でも自分の体が欲していない時に、食べる必要はないって思うのね。多くの健康情報に左右されることなく、自分の体の声を聞いて、それに従ってみる、動物的な本能を研ぎ澄ましてみることがいまの時代は特に大切だな、とつくづく感じています」
有元さんが時間と上手に付き合うための3カ条
(一)心と体の声を聴き、自分にもっと正直になる。
(二)居場所を変えれば、時間の使い方も変わる。
(三)やりたいことがあれば、まず一歩を踏み出す。
「 食べることや料理は暮らしの真ん中に。」
「台所で過ごす時間はとても大切なもの。煮炊きする匂いも音も立ち上る湯気も、ひとつひとつが愛おしく感じられます。台所は家の要、心地よくて落ち着く場所ね」
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