物語は冒頭、海老蔵という名で呼ばれていた少年が、一人の僧侶の入定(にゅうじょう)を目撃する場面から始まる。多くの見物人の目前で、衆生を救うためと宣言しながら生き埋めにされる僧侶の姿は、主人公とともに読み手の心にもインパクトを残し続けるエピソードである。
「この話は実際にあった史実です。團十郎は数々の台本を書いていますが、亡くなった人間が最後に神仏となって甦るというシーンがとても多いんです。不思議な終わり方だな、と思っていて。團十郎の舞台では、善人だった人が悪人になり、最後は神となって再び現れる。このストーリーは何なんだろうと、ずっと気になってた。そのとき『武江年表(ぶこうねんぴょう)』という資料で如西という僧侶がこの時代、『自分は鍾馗になって衆生を救う』と宣言して入定したという記録を見つけて、ばーっとリンクしたんです」
一気に腑に落ちたのだという。この「甦り」というフレーズは、たびたび物語の中に浮かび上がってくるモチーフのひとつである。
「このころ、人間はどんどん死んでいく、そういう時代でした。タイトルの『夢びらき』の夢も、当時はナイトメアの意味で使われることが圧倒的に多いんですね。今はドリームですけど、昔は悪夢のニュアンス。それを考えたときに、悪い夢をばーっと拓いてくれる、そんな存在としての團十郎をイメージしました。歌舞伎の原初的な感じの中で信仰と芸能がまだ密な時代に生まれた存在、だからこそ後世まで名を遺すような大変な芸能人だったのだろうと思います」