最近、「大人の日記」が静かなブーム。書店などにも日記帳のコーナーができていたり。今回本誌では、自分にあった書き方で始められる、日記ビギナーへの提案をしています。苦手意識があった人にこそ、発見がある特集です。そちらは本編をご覧いただくとして。
私(担当)の日記に関する思い出を少々。
幼少の頃から「できれば何もしたくない」という性分で、もちろん宿題の絵日記など息をするようにサボる。最終日に全部埋めるのが当然、という子供でした。
しかし小学校低学年の夏休み明け、そんな私が打ちのめされる出来事が。クラスメイトのNさんが壮大な「あさがお観察日記」を提出したのです。初日から最終日まで、細部まで描かれたあさがおの様子、詳しく書き添えられた観察記……最終日にやっつけ(以下)の仕事をした私を遥か高みから憐れむような眩しさを放ち、子供心にも感じる魂レベルの差……!
Nさんはどちらかというと控えめで、勉強も飛びぬけてできるという生徒ではない、少なくとも私にはそう見えていました。そんな私のしよーもない上から目線を、彼女が突如放った「丁寧な継続」という攻撃が見事に粉砕したのです。
ああ私には一生かかっても無理。それほどその観察日記はすごかった(もちろん大人たちも感動し、Nさんの観察日記は特別に廊下に貼り出されることになりました。参観日にそれを見たうちの母は私以上に打ちのめされ、いまだに我が家では語り草になっている)。その強烈な体験が、日記に対するハードルをさらに上げ、私は今まで何かを記録したことはありません。
しかし、そのトラウマが、今回の取材で書き換えられたのです(40年以上ぶりに!)。
私はNさんの「毎日コツコツとやり遂げる凄さ」「面倒なことにも手を抜かないまじめさ」に感服して今日まで来ました。自分に全くないもの。そしてそれこそが日記を続けられる人の特性だと。
でも、それだけじゃなかったのかも、と取材を通して思い至ったのです。
Nさんはただ本当に、毎日成長し、姿を変えていくあさがおが面白くて愛しくて、記録に残したかったのかもしれない。まだ写真など簡単に撮れない時代に、Nさんは毎日同じ葉を鉛筆で写し取り、大きくなっていく様を記録していました。本当にやりたくてやっていたのです。