シンプルな料理をするときはいっそう、あなたにデリケートな手が必要だ――犬養智子(エッセイスト)
文・澁川祐子
シンプルな料理をするときはいっそう、あなたにデリケートな手が必要だ――犬養智子(エッセイスト)
情報コーナーに掲載された「犬養智子の実践的書評」からのピックアップ。紹介しているのは、マリオ・ベニーニが調理指導した『マリオのイタリア料理』(調理・文/木村浩子、写真/西川治、草思社)です。
同書は1979年に刊行された全6巻のシリーズで、1巻は前菜、肉料理、2巻は卵、野菜、魚料理などとジャンル別にイタリア料理のレシピを掲載。調べたところ、1998年に新装版が発売されていました。
日本でイタ飯ブームが起きたのは、1980年代の後半。同書はそれ以前に出版された本で、当時ミラノに住んでいた写真家の西川治さん、木村浩子さん夫妻が、現地の名コックに教わった本場の味を紹介しています。
〈料理の本には役にたつものと、持っているのが楽しみで実際の役にはあまりたたないものの二種類がある〉と語る犬養さんからみて、この本は〈役に立つカテゴリーの中の、それもビッグスリーにはいる〉と絶賛。
つくり方がシンプルでおいしく、素材も手頃で、こりすぎていない。料理をしたことがない人でも挑戦しやすいレシピだと推薦しています。
しかしシンプルであるということは、逆にごまかしがきかないということ。素材のよし悪しが影響するのはもちろん、ちょっとした味つけや熱の入れ方の違いが如実にできあがりに反映されてしまうからです。
シンプルであるほど、手の細やかさがものを言う。これは何も料理だけにかぎったことではないでしょう。あらゆるものづくりに通じる真理が、このさりげないひと言に潜んでいます。
※肩書きは雑誌掲載時のものです。
澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。
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