バブルへ向かいつつある時代に背を向けるように、誰かの思い出が沁み込んだ骨董品を売る「時代屋」。ビクター犬の置物、革のトランクといったアイテム使いは言うまでもなく魅力的なうえ、らせん階段の歩道橋を渡った先という立地もどこか、夢の中の店といった佇まい。行きつけの飲み屋に集う顔なじみとの猥雑な会話は人情喜劇の味わいで、この映画自体に、古いものだけが持つしっくりした安らぎがあります。現実から半歩浮いた場所でくり広げられる、大人のファンタジーというべきか。
とりわけファンタジー色が濃厚なのが、夏目雅子演じる真弓のキャラクター。なにしろ白いワンピースを着て日傘を差し、猫まで抱いて登場するのです! ちょっと“不思議ちゃん”的ですらある言動でそれこそ猫のように居着き、「踏み込まないのが都会の流儀」とうそぶいて素性を語らず、ふらりと出ていったまま帰らない。生々しい女ではなく、昭和の男たちの妄想上の“女房”という感じ。
意味深なのが、男から見たらかなり面倒くさそうな田舎娘の美郷役も、夏目雅子が一人二役で演じているところ。幻想の女と現実の女を一手に引き受け、つかみどころのない浮遊感とあっけらかんとした生来の明るさが絶品ですが、このわずか2年後に急逝したことを思うと、ラストシーンの笑顔は、また別の意味を持って胸に迫ってきます。