美緒の心のよりどころはただ一つ、記憶にない祖父母が作ったというホームスパンの赤いショール。縫い付けられたタグには祖父の工房の名前。ある日、母との口論の末に家を飛び出した美緒は、衝動的にその工房に向かう。スマホが示した所在地は、盛岡だった。
美しい自然とホームスパンの豊かな色どり、誠実で温かい人々に囲まれて、美緒は(アルプスの少女ハイジのように!)心を健やかに育てていくが、シンプルなジュブナイル小説に終わらないところが本作の魅力だ。例えば、最初は世間体を気にする頑な母親として描かれる真紀。
「真紀は一生懸命周りの人にボールを投げているのに、思いどおりに受け止めてもらえないでいました。美緒には幼少期から素敵な絵本を与えたりしてきたのに喜ばれないし、夫ともずっとすれ違い。でも美緒を追って盛岡を訪ねたことをきっかけに、自分が本来好きだったものを思い出し、美緒の気持ちを初めて理解するのです」