くらし

切ない彼女。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」

友人の同僚の話がとても切ない。
彼女の願いは「宝くじを当てたい」「給料をあげて欲しい」「有休が欲しい」など、多くの人が望むものだ。私だって同じようなことを常に望んでいる。
友人が同僚の願いを込めたそんな言動に顔をしかめるのは「そんなことばかりしつこく言う」から。全てはお金と時間の話。友人の話に幾度となく登場する彼女だが、話を聞きながら会ったことのない彼女をイメージはするものの、透明の薄いシートのように風に飛ばされて見えなくなってしまう。有休を取って何をするのか、宝くじを当てたら何がしたいのか、彼女の人となりがわかるエピソードがいつも欠落している。

あるとき、彼女のイメージを捕まえるために重要な情報がもたらされた。彼女は、有休を取れないわけではないのに取らないし、取ることになったとしても「やることがないので、ラーメン食べてる」という。

私が会ったこともない彼女に対してずっと気になってしまうのは、十分なお金と時間を与えられたとして、インターネット弱者でもない世代で、溢れるほどの情報をしっかり受け取ったとしても「することがない」という結論に至ってしまうことに共感しているからだ。
情報=想像力ではない。情報によって、想像力が刺激され、行動となる。その想像力が欠落していると、どのように使うべきか指南を受けて与えられた時間もお金も、使わずに捨てているのと同じ。彼女が今後自身の想像力を鍛えて、「有休取ってやりたいことがある」と言えるようになった、という話を、友人から次は聞きたい。

束芋(たばいも)●現代美術家。近況等は、https://www.facebook.com/imostudio.imo/にて。

『クロワッサン』1016号より

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