料理カメラマンの日置武晴さんの手みやげは、老舗青果店の生フルーツゼリー。
「一冊の本だけを売りながら、そこからインスパイアされた展示を行う銀座の『森岡書店』で料理家の坂田阿希子さんが展覧会を行ったことがあって、その時に持参したのがきっかけ。夏だったし冷たいものをと考えたところ、生活圏内だけど入ったことのない『ヤマナカヤ』の存在を思い出して行ってみたんです。ショーウインドウを覗いたら色とりどりのフルーツがたっぷり入ったゼリーがある。それで“ああ、これはいいな”と。多店舗化していないお店ですし、もしかしたらおいしいものに詳しい坂田さんにとっても珍しい手みやげになるかなと思って」
フルーツという存在にも、言葉の響きにも一種の憧れと華やかさが漂っていた1930年代から続く店だけに、ゼリーの佇まいにも歴史と気品が感じられる。それでいて価格は控えめなのがうれしい。
「被写体としても美しいですね。ゼリーは実際に撮るのが難しいのですが、このゼリーはフルーツの粒が影で出るので、それを活かした写真が撮れそうです(笑)」
と、さすが。ならではの視点。ところで、ここに限らず、日置さん好みの店は昔ながらの雰囲気を持つところが多い。
「意識して老舗を選ぶわけではないですけど、食に関しては最新のものにあまり興味がなくて、ずっと変わらないものを丁寧に作り続けているお店のほうが好きなのかもしれません。長年続いているところはそれだけの理由があると思うので」
自身でお菓子を作ることもある。
「以前『オーボンヴュータン』の単行本の仕事をして、そのレシピどおりにフランス伝統のガレット・ブルトンヌを作るのに凝っていました。材料がバターと卵黄と小麦粉、砂糖と塩だけで、うまくできるとバターの風味が何とも香ばしいのですが、シンプルなだけにこれが難しい。そんな部分に歴史の深さを感じますよね」