くらし

二人にとっては世間話。│束芋「絵に描いた牡丹餅に触りたい」

今、私は新幹線に乗っている。隣の席にはお爺ちゃんとお孫さんだろうお二人。6、7歳くらいのお孫さんはお爺ちゃんに自分が描いた絵の説明を息もつかせずまくし立てている。

何か漫画のキャラクターでも描いて、お爺ちゃんに「上手に描けたねー」と褒められたいのか?と思っていたら、聞こえてくるのは「菌がここから入って、、、」「ピロリ菌がねぇ、、、」「DNAに、、、」とかなんとか。絵をチラリと覗き見ると、細かい機械のような線画に彩色した絵。お爺ちゃんからも「やっぱり発酵食品が、、、」「醤油の旨味は、、、」など、全部聞き取れないのが悔しいけれど、とにかく興味深い話のオンパレード。

「色んな細胞の、主な5つを紹介します」と言って、各細胞の働きをお爺ちゃんに説明し始めたり、「結局マイナスとプラスは無限なんだよね」とか「数学者のオイラーが発見した数式で、、、」「宇宙が11次元ということは、、、」と、幼い少年の口から飛び出す言葉は、細胞レベルのミクロの世界から宇宙のマクロ世界まで。

お爺ちゃんも「可能性は否定できないね」なんて応えていて、二人の頭に広がる広大な知識の海を想像させる。

二人は新幹線を降りる前、窓の外に目をやり、雲間から注ぎ降る陽光を眺め「綺麗だね。あの奥に4次元があるんじゃない?」と話していた。

二人は「皆に共通して見えている世界が全てではない」というような話もしていたけれど、つくづくそうだなぁ、と感心させられた。

ちなみに「数学者のオイラー」と「宇宙が11次元」はネットで調べてみた。二人の隣にたまたま座らなければ、きっと一生行き当たらなかった新しい扉。彼らに教えてもらった扉から、私の人生において大切な何かが見えてくるかもしれない。

束芋(たばいも)●現代美術家。近況等は、https://www.facebook.com/imostudio.imo/にて。

『クロワッサン』1008号より

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