くらし

一人の人間が一生に行けるところは、ごく小さな点にすぎない――編集部

1977年創刊、40年以上の歴史がある雑誌『クロワッサン』のバックナンバーから、いまも心に響く「くらしの名言」をお届けする連載。今回は、紀行文をたどりながら、旅の魅力を味わいます。
  • 文・澁川祐子
1978年10月10日号「旅のエッセイから選んだ秋の推薦コース」より

一人の人間が一生に行けるところは、ごく小さな点にすぎない――編集部

行楽の秋。読書の秋。二つの「秋」をかけ合わせた、旅のエッセイにまつわる読書案内では、北海道から南下して沖縄まで、さらには海外にも足を延ばし、土地ごとに引用を織り交ぜながら作品を紹介しています。

スタートは、動物文学の草分けである戸川幸夫さん(1912-2004)が『野性への旅1』に綴った、北海道・知床半島のオホーツクの厳しい海の姿。東北パートでは、福島の裏磐梯に会津漆器の木地師を訪ねる詩人・松永伍一さん(1930-2008)の『土塊(つちくれ)のうた』からの引用。玄人好みのシブいセレクトが続きます。

西へ行くと、食欲の秋もプラス。『新日本紀行』に収録されているドイツ文学者・山下肇さん(1920-2008)の「琵琶湖から若狭へ」というエッセイより、滋賀・彦根の「いさざ」(琵琶湖特産のハゼの一種)を煮た珍味が取りあげられたかと思えば、波多野承五郎著、犬養智子編『食味の真髄を探る』から山口・下関のフグ、金子治司著『全国・味の旅・車の旅・汽車の旅』から沖縄の豚料理といった王道にもふれています。

こうして読んでいると、海外はもちろん、日本でさえもまだまだ未知の風景や風物がまだまだたくさんあるなあと、今回の名言が染みます。紀行文を読むことは<またひとつの旅>と記事にありますが、それはいわば点と点をつないでいく補助線のようなものかもしれません。

さらにここに登場する本の大半は、現代ではあまり知られていないもの。場所だけでなく時代も超えて「旅」の醍醐味を味わわせてくれるのも、バックナンバーの読書案内だからこその収穫でした。

※肩書きは雑誌掲載時のものです。

澁川祐子(しぶかわゆうこ)●食や工芸を中心に執筆、編集。著書に『オムライスの秘密 メロンパンの謎』(新潮文庫)、編著に『スリップウェア』(誠文堂新光社)など。

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