くらし

『五つ数えれば三日月が』著者、李 琴峰さんインタビュー。 「日本の、人と人の距離感が心地よいです」

  • 撮影・黒川ひろみ(本) 中村ナリコ(著者)
国を、言葉を、セクシュアリティを超えてーー。「私」は大学院同期の実桜と再会する。表題作に 加え「セイナイト」も収録。1,400円 文藝春秋
李 琴峰(り・ことみ)さん●1989年、台湾生まれ。2013年に来日。’17年に、「独舞」で第60回群像新人文学賞優秀作を受賞。日本文化にも精通。「『村上春樹が好き』というと日本の人は喜びますね(笑)。映画では岩井俊二監督作品が好きです」

台湾人作家による日本語で書かれた小説である本作品。今年度上半期、第161回芥川賞の候補作のひとつになり話題を呼んだ。

台湾生まれ、現在は日本で職を得ている林妤梅(りんよばい)、日本で生まれ育ち台湾に渡った浅羽実桜(あさばみお)。ふたりの女性は東京の大学の大学院で同期として出会って親しくなるが、卒業後、実桜が台湾で職を得たことにより離れ離れになる。そして5年後のある夏の日に再会、池袋の中華料理店でお互いの近況を報告しあう。物語はこの日のふたりの他愛ない会話と、妤梅の子どもの頃の記憶、そして告げないまま抱えてきた実桜への淡い想いが交互に綴られる形で進む。

まず驚かされるのは、紡がれる日本語の正確な美しさだ。

〈私は諦めたくなかった。短い夏の夜の尻尾をできる限り長く伸ばしたかった。明日という日が来る前に、二千キロの海が再び私と実桜を隔てる前に、どうにかして実桜の隣にいられるこの瞬間を、風に吹き消されないよう蝋燭の火を両手で囲うように大事にしたかった〉

登場人物ふたりの名前のように花の芳しい香りがするような、音程の正確な歌を聴いているような心地よい感覚に包まれる。

「中国語は一つ一つの単語を作る文字に意味があります。なので、日本語で書くときも言葉の持つ意味に敏感になると言えるのかも」

作中、キーアイテムとして漢詩がたびたび登場することも印象に残る。台湾の人はこのように日常的に漢詩を詠むのですか?

「いいえ。でも大学で中国文学を専攻するには詩作の授業が必修です。それには教養として古典詩の知識が必要ですし、現在も漢詩の文学賞があります。その意味で比較的身近な存在ではあります」

また、中国語圏では、エッセイ文学が小説同様の高い地位を得ているとのこと。伝統的に「叙情を重んじる文化があるのだと思う」。

住む場所は自分で選べる。それはとてもありがたいこと。

日本との縁のきっかけは?

「私は大学生の時に東京に来ました。それまで何度か日本に来たことがあるけれど、東京に来たのはそれが初めて。自分はちょうどそのとき台湾で生きることに、プライベートな面で息苦しさを感じていて、東京の、人と人の間に距離感があってむやみに他人の領域に踏み込まないところに救われた気持ちがしました。台湾ではその距離感がもっととても近くて、私はそれに順応できなかった」

息苦しさとはLGBT的な意味合いも含めて?

「はい、それも含めて。私たちは基本的に国籍や出生地や性別、セクシュアリティは選べない。押し付けられた感じです。でも自分の住む場所は自分で選べる、それが私にはありがたいことでした」

物語終盤、一日の終わりに想いを込めたカードを実桜に渡そうとする妤梅。心のゆらぎの描写が美しい。詳細は省くがこのエンディングの意図を聞くと、「そうですね……余韻です」と、婉然と微笑んだ。

『クロワッサン』1006号より

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