好きなもの得意なこと、これからも。自分らしく、地域の中で生きていく──「あおいけあ」
撮影・小川朋央 文・板倉みきこ
認知症の高齢者も、みな何かのプロ。当事者たちの「強み」を活かすケアを
神奈川・藤沢 『あおいけあ』
深刻な人材不足や、家族への負担などから介護後進国ともいわれる日本。けれど、加藤忠相さんが代表の介護事業所『あおいけあ』は、その独自のケアが注目され、フランスやオーストラリアなど各国の視察が相次いでいる。
「視察後、利用者とスタッフの違いがよくわからないほど、みんな溶け込んで楽しそうだと驚かれるんですが……。特別なことはしていません。基本は普段のコミュニケーションと一緒で、相手が嫌なことはしないこと。そして良いところを活かし、高齢者が困らない環境を整える。それが私たちが考える、あたりまえの介護だと思っています」
介護の前に大事なのが、 いい関係性を築くこと
神奈川県藤沢市にある『あおいけあ』。敷地内には認知症の高齢者が共同生活をするグループホーム「結」と、通い・訪問・宿泊を包括的に行う、地域密着型の小規模多機能型居宅介護「おたがいさん」ほか2棟が揃う。門や壁もないオープンな敷地内には楠や柿など様々な木々が植わり、利用者の五感を刺激できるよう、建物内部にもふんだんに木材が使われている。施設にはマニュアルはなく、利用者の特性ややりたいことに合わせ、スタッフが臨機応変に対応するのが特徴だ。
認知症は病気でなく老化。誰にでも起こるものと捉えて
家族が認知症だと診断されると、その症状ばかりが目につく。また施設では徘徊などを重く見て、個人の自由行動を制限しがちだ。管理しようと拘束すれば、動けないストレスが増し、認知症の症状も進んでしまうそう。
「怒って当たり散らす人や、徘徊する人をじっくり観察すると、何か困っていたり、不快を感じているから行動を起こしているのが分かります。その困っている環境を改善して整えたり、ケアで支えると、行動は変わる。当事者を支配・管理するのではなく、その人がその人らしくやりたいことをやれるよう、サポートする介護が必要です」
昔取った杵柄! 包丁だって使います
サポートするために大切なのが、施設独自のアセスメント(課題分析・評価)。利用者の人となり、これまでの生き方や好きなことなど、あらゆる方面からスタッフそれぞれが綿密にリサーチし、個人の症状を悪化させない、改善するための目標を立てていく。
「料理が好きな人には料理をやってもらうし、畑仕事や大工仕事、以前は敷地内で駄菓子屋をやってもらったこともあります。記憶のうち、認知症になっても薄れないのが、体に染み込んだ技術の記憶や、無意識の刷り込みで行動に影響を与える潜在的な記憶です。この2つの記憶に働きかけて脳の機能を維持すれば、症状の悪化を防げます。高齢者は、みな何かのプロ。長年の経験と強みを持っていますので、それらを活かし、発揮できる場を作り、やりがいと自尊心を維持してもらうのが、私たちのやることだと思います」
みんなで作って食べるおやつは楽しいね
取材に訪れた日も、施設内では利用者が自由気ままに過ごしていた。小学生に夏休みの宿題を教えていた元エンジニアの80代の男性や、スタッフの息子の浴衣の仕立て直しを、生き生きと手伝う元呉服店勤務の80代の女性の姿に、脳への好影響を実感。利用者だけでなく、彼らと触れ合うスタッフたちにも好循環が及ぶのが、ここの特徴でもある。若いスタッフは利用者に料理を教わりながら、和気あいあいと時間を過ごす。夫と死別後に働き始めた80代のスタッフは、「自分の居場所ができ、同級生と楽しい時間を過ごしている感覚」だと、充実した様子だ。
何をして過ごすかは それぞれの自由
以前の暮らしと変わらず、できることは自分で
「認知症は病気というより老化。できることに注目して支えれば、できないことが目立たなくなる」と加藤さん。家族にも、自分にも起こりうる認知症。人も地域も一体となり、お互いさま、と思って支え合う世界を作るのは、そんなに難しいことではないのかも……。そう思わせてくれる施設だ。
『あおいけあ』がモデルの映画『僕とケアニンとおばあちゃんたちと。』は、上映会受付中。詳細は「つながる上映会Navi」
https://joueikai-navi.com
© 映画「僕とケアニン」製作委員会
あおいけあ
神奈川県藤沢市亀井野4-12-93
グループホーム、小規模多機能型居宅介護ともに、藤沢市民のみ利用可能。
https://aoicare.co.jp/
『クロワッサン』1174号より
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