着物研究家・シーラ クリフさんの着物の時間──着物は楽しいファッションのひとつ。自分らしく表現してほしい
撮影・青木和義 ヘア&メイク・桂木紗都美 着付け・小田桐はるみ 文・大澤はつ江 撮影協力・港区立郷土歴史館
和と洋を融合させて新しい趣に。既成概念にとらわれずに装いたい
黒地に鮮やかな牡丹色の八掛、半衿も同系のピンク。合わせた帯には松や日の出、北斎風の波頭、といった日本的な柄が鮮やかな色合いで描かれ、足元にはピンクをベースにしたブーツが映える。見ているだけでウキウキするような、ポップな雰囲気に溢れた装いだ。
「楽しいでしょう? 着物という日本の伝統衣装に、あえてブーツやイヤリング! 和と洋を融合することで新しい着こなしが生まれると思うんです」
と日本に暮らして41年目を迎えるシーラ クリフさん。十文字学園女子大学名誉教授として学生たちに『着物文化』を講義するかたわら、埋もれていた埼玉・川越の地場産業『川越唐桟』の再生などにも尽力している。
「今回の着物は5年前に懇意にしている織物職人の方からいただきました。黒い着物は喪服のイメージがありますが、洋服にはLittle black dress(装飾の少ない黒一色のドレス)があり、着物版を作りたかった。地紋は“江戸切子”。江戸=東京のポップな感じを小物の色使いで表現できたらいいなと思い、このようなコーディネイトにしてみました。半衿も気に入った色がなかったので、ピンクのサテン地を見つけて自分で縫いました」
気に入ったものがないなら自分で作る、これがシーラさんのポリシー。
「数年前から和裁を勉強しています。今日の長襦袢も自分で縫いました」
シーラさんが初来日したのは24歳のとき。
「ロンドンの大学で演劇を専攻していたんですが、そのときの友人が『武道』を学んでいて。私も演技の役に立つかもと、空手から派生した『新体道』を習うことに。稽古をするうちに、日本の道場で学びたいと思い、休みを利用して来日しました」
ところがある日、古い器を見に出向いた骨董店で運命的な出会いをすることになる。
「緋色の着物が目に飛び込んできたんです。なんて美しい! 即購入しました。それを身に纏っていると友人が『それは長襦袢といって、着物の下に身につける下着のようなもの』と。びっくりです。なんでこんなに美しいものを隠すの? 着物って不思議。そこからですね、着物に興味がわいてしまいました」
気がつけば、百貨店の呉服売場で訪問着をはじめ小紋などを購入し、帰国を延ばし、着付け教室に通うことに。
「どうしても自分で着たかった。言葉が理解できないので、身振り手振りでしつこく何度も聞き、先生も根気よく教えてくれて……。着ては脱ぎ、脱いでは着てを繰り返し、着付け講師3級を取得できました」
今や外出時はほぼ着物、というシーラさん。その着こなしポイントを聞くと。
「テーマを決めて色を選び、行く場所と会う人を考えて決めています。そして季節も大切にしています。秋なら、暖かみのある色をメインにして、銀杏の黄色、落ち葉の茶などをさし色にしてアクセントをつけます。色同士が織りなす美しさは着物ならではですから」
そして既成概念にとらわれず、自由に楽しむことも、これからの着物にとって重要なことだと。
「着物は楽しいファッションのひとつ。自分なりの表現をしてほしいと思います。でもだからといって、TPOをわきまえない着こなしは感心しません。品格はとても大事です。着物は完成された様式美。そこはきちんとリスペクトしてほしい。これからも着物の魅力を世界へ向けて、私ならではの視点で伝えていきたいですね」
『クロワッサン』1152号より
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