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着物研究家・シーラ クリフさんの着物の時間──着物は楽しいファッションのひとつ。自分らしく表現してほしい

今回の「着物の時間」は、2002年、民族衣裳文化普及協会「きもの文化普及賞」を受賞。2020年から十文字学園女子大学教育人文学部文芸文化学科の教授に就任。現在は名誉教授のシーラ クリフさん。

撮影・青木和義 ヘア&メイク・桂木紗都美 着付け・小田桐はるみ 文・大澤はつ江 撮影協力・港区立郷土歴史館

和と洋を融合させて新しい趣に。既成概念にとらわれずに装いたい

シーラ クリフさん イギリス出身。1985年に初来日。1987年にテンプル大学日本校に入学し、英語教育の資格を取得する。2002年、民族衣裳文化普及協会「きもの文化普及賞」を受賞する。2020年から十文字学園女子大学教育人文学部文芸文化学科の教授に就任。現在は名誉教授。著書に『KIMONO EVOLUTION』(芸術新聞社)など多数。50人の着物箪笥を取材した『50人の箪笥』を出版予定
シーラ クリフさん イギリス出身。1985年に初来日。1987年にテンプル大学日本校に入学し、英語教育の資格を取得する。2002年、民族衣裳文化普及協会「きもの文化普及賞」を受賞する。2020年から十文字学園女子大学教育人文学部文芸文化学科の教授に就任。現在は名誉教授。著書に『KIMONO EVOLUTION』(芸術新聞社)など多数。50人の着物箪笥を取材した『50人の箪笥』を出版予定

黒地に鮮やかな牡丹色の八掛、半衿も同系のピンク。合わせた帯には松や日の出、北斎風の波頭、といった日本的な柄が鮮やかな色合いで描かれ、足元にはピンクをベースにしたブーツが映える。見ているだけでウキウキするような、ポップな雰囲気に溢れた装いだ。

「楽しいでしょう? 着物という日本の伝統衣装に、あえてブーツやイヤリング! 和と洋を融合することで新しい着こなしが生まれると思うんです」

と日本に暮らして41年目を迎えるシーラ クリフさん。十文字学園女子大学名誉教授として学生たちに『着物文化』を講義するかたわら、埋もれていた埼玉・川越の地場産業『川越唐桟』の再生などにも尽力している。

「今回の着物は5年前に懇意にしている織物職人の方からいただきました。黒い着物は喪服のイメージがありますが、洋服にはLittle black dress(装飾の少ない黒一色のドレス)があり、着物版を作りたかった。地紋は“江戸切子”。江戸=東京のポップな感じを小物の色使いで表現できたらいいなと思い、このようなコーディネイトにしてみました。半衿も気に入った色がなかったので、ピンクのサテン地を見つけて自分で縫いました」

気に入ったものがないなら自分で作る、これがシーラさんのポリシー。

「数年前から和裁を勉強しています。今日の長襦袢も自分で縫いました」

「1950年代のバッグだと思います。バッグ側面の黒い部分は、内側の板が外れたので着物の端布で包みオリジナルに。パーティーなどで使います」
「1950年代のバッグだと思います。バッグ側面の黒い部分は、内側の板が外れたので着物の端布で包みオリジナルに。パーティーなどで使います」

シーラさんが初来日したのは24歳のとき。

「ロンドンの大学で演劇を専攻していたんですが、そのときの友人が『武道』を学んでいて。私も演技の役に立つかもと、空手から派生した『新体道』を習うことに。稽古をするうちに、日本の道場で学びたいと思い、休みを利用して来日しました」

ところがある日、古い器を見に出向いた骨董店で運命的な出会いをすることになる。

「緋色の着物が目に飛び込んできたんです。なんて美しい! 即購入しました。それを身に纏っていると友人が『それは長襦袢といって、着物の下に身につける下着のようなもの』と。びっくりです。なんでこんなに美しいものを隠すの? 着物って不思議。そこからですね、着物に興味がわいてしまいました」

気がつけば、百貨店の呉服売場で訪問着をはじめ小紋などを購入し、帰国を延ばし、着付け教室に通うことに。

「どうしても自分で着たかった。言葉が理解できないので、身振り手振りでしつこく何度も聞き、先生も根気よく教えてくれて……。着ては脱ぎ、脱いでは着てを繰り返し、着付け講師3級を取得できました」

今や外出時はほぼ着物、というシーラさん。その着こなしポイントを聞くと。

「テーマを決めて色を選び、行く場所と会う人を考えて決めています。そして季節も大切にしています。秋なら、暖かみのある色をメインにして、銀杏の黄色、落ち葉の茶などをさし色にしてアクセントをつけます。色同士が織りなす美しさは着物ならではですから」

そして既成概念にとらわれず、自由に楽しむことも、これからの着物にとって重要なことだと。

「着物作家でオブジェ作家の重宗玉緒さんの帯。色と柄が見事にマッチしていて、見ているだけで楽しい」
「着物作家でオブジェ作家の重宗玉緒さんの帯。色と柄が見事にマッチしていて、見ているだけで楽しい」

「着物は楽しいファッションのひとつ。自分なりの表現をしてほしいと思います。でもだからといって、TPOをわきまえない着こなしは感心しません。品格はとても大事です。着物は完成された様式美。そこはきちんとリスペクトしてほしい。これからも着物の魅力を世界へ向けて、私ならではの視点で伝えていきたいですね」

『クロワッサン』1152号より

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