対馬ルリ子さんに聞く、現代女性の常識「ホルモン補充療法(HRT)」。今こそ情報アップデートを。
今こそ、女性の「常識」としてとらえ直したい。
イラストレーション・いいあい 構成&文・越川典子
【対馬ルリ子さんに一問一答。今こそ、HRT情報をアップデート。】
Q1.どんなメリットがありますか?
ご機嫌ホルモンといわれるほど、女性の心身にポジティブに働きかけてくれるのがエストロゲン(卵胞ホルモン)。
肌や粘膜のうるおいを保ってくれたり、骨を丈夫にしたり、血管をしなやかにしたり。肥満を予防し、LDLコレステロールを減らす役割も。
本質的にはいいことだらけのエストロゲンですが、37、38歳くらいから減少して、閉経するとほぼゼロになってしまいます。「HRT」とは、足りなくなった女性ホルモンを薬で補う治療法です。
閉経前後のタイミングで治療を始めると、ホットフラッシュや肩こり、めまい、目や口の乾燥、手指のこわばりなどは、早いうちに改善されることが多いですね。
また、閉経後もある程度長く治療を続けることで、骨粗鬆症や動脈硬化症、糖尿病など生活習慣病の予防効果があることが国内外の研究で発表されています。ここが肝心なポイントです。
これは、閉経後30年、40年、アンチエイジングの手段としてHRTを活用する時代になったことを意味しています。実際、10年以上HRTを続けている女性は増加。できる限り長く、自立して生きるため、後半人生を支えるベースとして考えるのが、これからのHRT治療です。
□ 骨粗鬆症予防・改善
□ 高コレステロール血症予防
□ 糖尿病予防
□ 高血圧予防
□ アルツハイマー型認知症予防
□ 大腸がん・肺がん・胃がん・食道がんのリスク低下
Q2.どんな検査、どんな治療ですか?
通常は問診、血液検査、骨密度などの測定。さらに患者さんの訴えを聞いた上で複数の治療法から選択します。いきなり内診ということはまずありません。
クリニックや病院は、できれば更年期外来を掲げているところを選びましょう。更年期障害の治療経験が多いほど、治療がスムーズにすすむからです。
更年期障害や萎縮性膣炎、閉経後骨粗鬆症と診断が下りれば、HRTも保険適用できますが、患者さんから「まず1カ月、試してみたい」と提案するのもいいですね。継続するかは、後で決めればいいのです。
降圧剤などを服用中でも、コントロールさえできていれば、HRTと併用できます。乳がんの既往歴があるなど、HRTが禁忌の場合もあり、喫煙者や肥満度が高い人は慎重投与になります。
Q3.HRT薬の種類を教えてください。
子宮がある人は、エストロゲンのほかに、もう一つの女性ホルモン、プロゲステロン(黄体ホルモン)も処方されますが、これは、エストロゲンによって厚くなった子宮内膜をはがす(消退出血)役割をしています。これら両方のホルモンを処方することによって、内膜が肥厚するのを防ぎ、子宮体がんを予防します。
子宮全摘した場合は、エストロゲンの単独投与が可能です。
ホルモン剤には、飲む、塗る、貼るの3形状があって、貼るタイプ・塗るタイプは経皮吸収するので胃腸や肝臓の負担にならないなどのメリットがあります。
皮膚が弱いから飲むタイプ、という選択もできます。目的や好みによって種類、量、組み合わせを選択できる時代になっていることを覚えておいてください。
Q4.治療費はどのくらいかかりますか?
HRTはセレブのためのもの? 高額では? そんな質問も受けます。治療費は心配ですよね。ですが、HRTは更年期障害の標準治療。健康保険が適用されます。
診察料、検査料などは別にして、1カ月の薬代は、2,000~3,000円といったところでしょうか。治療が順調にすすめば、3カ月に1回の診察に。最近ではオンライン診療を取り入れる婦人科も増えてきて、便利になりました。
また、じっくり時間をかけて診察してもらいたいという場合は、自由診療のクリニックを選ぶこともできます。ただし、料金はクリニックによって差があります。
また、処方薬ではありませんが、第2類医薬品として市販されているエストロゲンクリーム(品名:バストミン)もあって、ドラッグストアやネットで入手は可能です。
Q5.いつから始めて、いつやめるのでしょう。
閉経頃から始めるのが理想ですが、症状が重い、つらくて仕事が手につかないという場合は、閉経前でも、また閉経から数年以上たっていても、婦人科へ行くことをすすめます。こと体に関しては、我慢は美徳ではありません。
低用量ピルを続けていた人がHRTに移行する場合は、休薬期間をもうけて血液検査等でまず確認します。ピルにHRTを重ねる、すぐにHRTに移行するなどして、中断期間ができないようにかかりつけ医と相談して決めましょう。
一方、やめるときの決まりはありません。いつやめても、また、いつでも再開することができます。少しずつ減らして体を慣らしながらやめる方法もあれば、リスクを確認しながら長く継続する場合もあります。
いずれにせよ、1年に1回は子宮頸がん、子宮体がん、乳がんの検査、子宮や卵巣の超音波検査、血液検査を受けましょう。自分の体と将来を自分でデザインする意味でも、なぜ続けるのか、目的をかかりつけ医と確認するとなおいいですね。
更年期症状は落ち着いたけれど、骨粗鬆症予防や美容、アンチエイジングを目的にしてHRTを続けるという判断もあるでしょう。何より、当事者意識をもって、「自分で選択する」ことが大事です。
やめどきを心配する人は、ホルモン剤を長く用いることに不安を感じているかもしれませんね。
でも、HRTのエストロゲン量は、低用量ピルの5分の1程度にすぎません。この量は、男性が体内にもつエストロゲン量とほぼ同じくらい。少しは安心できたでしょうか。
Q6.副作用の心配はありますか?
HRTを開始すると、出血したり、乳房が張ったりすることがあります。でも、慌てる必要はありません。HRT由来のものであれば、1~3カ月もあれば、症状は落ち着きます。出血の量などに不安があれば、かかりつけ医に相談しましょう。
乳がんのリスクが高まるという声もいまだに聞かれますが、これは古いデータが根拠になっています。
実際には、1万人に8人が、11人に増える程度。絶対リスクを考えれば、毎年婦人科検診をすることで早期発見できるメリットのほうが大きいため、HRTが見直されている面もあります。
実際、乳がんリスクの比較では、出産経験がない、喫煙しているなどのほうが高いのです。5年以内のHRTは、むしろ乳がんのリスクを下げるという研究もあります。
※HRTとは、Hormone Replacement Therapyの略。
『クロワッサン』1070号より