一生かけて楽しみつくす趣味の話:稲垣えみ子さんの「ピアノ」
新たな趣味を見つけ、充実した日々を送っている人を取材。その生き生きとした姿に、何歳から始めても遅くないと勇気をもらえるはず。
撮影・黒川ひろみ 文・長谷川未緒
人前で弾くためでなく、練習こそがゴール
稲垣えみ子さん(58歳 フリーランサー)
稲垣えみ子さんは、雑誌への連載依頼をきっかけに、53歳で40年ぶりにピアノを再開した。
「子どもの頃、練習が嫌で投げ出したことがずっと心残りだったんです。で、いざ再開してみたら楽譜は全く読めないわ指は全く動かないわで本当に大変だったんですが、やらされてる練習じゃなくて、自分でやりたくてやるってことが本当に楽しくてすっかりハマってしまいました」
「先生の方針で弾きたい曲を弾くのも大きな楽しみです。音楽配信サービスで次に弾く曲を一生懸命選ぶうちに、すっかりクラシックおたくになってしまいました」
好きな作曲家について調べたり、その作曲家が生きた時代に思いを馳せたりするのも豊かな時間だ。毎日最低でも2時間は弾き、国内外の旅先でもピアノの練習ができるところを探すくらいピアノ漬けの日々を送っているが、弾きたい曲は膨大にあり、死ぬまでに弾ける曲はそのごく一部と思うと時間が足りないそう。
「そんなに練習して発表会でも開くの?と聞かれるんですけれど、盛大に苦労してちょっとでも上達することそのものが楽しいので、毎日の練習自体がゴールなんです。成果主義の世界で生きてきたので、こういう考えに至れたことはすごくよかった。今この瞬間を生きるということが少しずつ身についてきた気がします」
『クロワッサン』1126号より
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