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“ゆるゲー”に癒やされる!?│山口恵以子「アプリ蟻地獄」

  • イラストレーション・勝田 文

気が付いたら死んでいた主人公。まだ成仏していないが、下界では自分の葬式をやっていてどうも気まずい。あの世へ行くまで、ちょっと猫でも可愛がろうか……というコンセプトのゲームアプリ。

『ねこかわいい ぼくゆうれい』。幽霊になった主人公が猫と暮らすなかで目標を達成していくアプリ。無料。

基本的には以前ご紹介した「ねこあつめ」と同じ。指定の猫マークをタップして小銭を貯め、エサや遊具を買って猫たちを呼び寄せる。

猫は次々現われ、エサを求めて行列をなし、かわいい声で鳴きながら遊具に戯れて去って行く。九割以上は白猫だが、たまに白黒とか黒猫とか、レア猫さんがやって来る。

そうこうするうちに小銭が貯まって遊具も増え、マタタビを奢った。猫アルバムも充実してきたぞ。

だから何だと言われたら一言もない。しかし、このゆるいゲームには、人の心を癒やす力があると思う。

これを書いているのは四月末。新型コロナウイルスの猛威は続いていて、私とほぼ同年齢の岡江久美子さんまで犠牲になった。馴染みの飲食店とバーはすべて休業し、三十年来通っている駅前の美容室も、昨日ついに休業を余儀なくされた。

私自身は「ありふれた日常」がひっくり返った余波で、新作を書き直す羽目に陥ってしまった。この先どうなるか考えると、不安で押しつぶされそうになる。

そんな時、幽霊になっても深く考えず、お迎えが来るまでのんびり猫と遊ぶ主人公を見ていると、いくらか気持ちが楽になる。

そう、こんな時は猫と遊ぶに限る。うちには三匹もいるんだし。

山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。最愛の母と過ごした最期の日々を綴ったエッセイ『いつでも母と』(小学館)。

『クロワッサン』1022号より

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