新進気鋭の講談師として注目を集める神田松之丞さんが選んだ手みやげは、東京・新橋にある老舗『新正堂』の「切腹最中」。あの「忠臣蔵」の浅野内匠頭が切腹をした田村屋敷跡に店が立っていることにちなんだ一品だ。最中の皮からあんこが飛び出した姿は、かなりの迫力がある。
「世の中いろいろなアイデア商品がありますけど、切腹と最中をかけ合わせたところがとにかく面白い。しかも、田村屋敷跡に店がある新正堂さんにしか出せない商品ですよね。手みやげにすると、相手の頬が緩むし、話にも花が咲くんです」
現在の新正堂を切り盛りする3代目主人が考案した最中。当初は縁起が悪いと周囲に大反対されたそうだが、今では行列ができるほどの人気商品になった。
「自分が面白いと思うものに突き進むご主人の姿勢が、僕の芸風とも通じる気がします。講談でも、忠臣蔵にまつわるネタはしょっちゅうやっていますし、毎年12月14日は泉岳寺で一席やらせてもらっているんです。そういう意味でも、自分らしい手みやげだと思いますね」
以前から甘党だったが、30歳を過ぎてからは特に和菓子のおいしさに目覚めた。
「シンプルな味が好きになってきましたね。お菓子ひとつとっても、自分という人間の変化がわかって面白いです」
ところで、演芸界の符丁では、食べることを「のせる」、楽屋の差し入れのことを「のせもの」というのだとか。
「演者がちょこっとつまめるように、お饅頭やおかきなんかを、常に切らさないように用意するんです。この最中は、のせものにもぴったりですね」
取材時は、ちょうど松之丞さんの師匠である神田松鯉さんが、寄席で「赤穂義士伝」特集をかけている時期だった。松之丞さんが、切腹最中をのせものとして買っていったところ、演者全員に大好評。あっという間になくなったそうだ。