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『ヒストリア』池上永一さん|本を読んで、会いたくなって。

自分なら沖縄戦をどう描くか、考えました。

いけがみ・えいいち●1970年、沖縄県那覇市生まれ。中学を卒業するまで石垣島で育つ。本作で第8回山田風太郎賞受賞。著書に『風車祭(カジマヤー)』『シャングリ・ラ』『テンペスト』など。

撮影・千葉 諭

沖縄を舞台にした物語を数多く描いてきた池上永一さん。今作もまた沖縄戦の痛ましい光景から幕が上がるが、やがて舞台は南米ボリビアへ。チェ・ゲバラなど実在の人物も絡む、壮大な女の一代記だ。

主人公は知花煉(ちばなれん)。沖縄戦で爆撃を受け、家族を失い、マブイ(魂)まで落としてしまう “かわいそうな美少女” のはずなのだが……。

「いい女なんですよ(笑)。ちょっとビッチでおしゃれで、男を騙して生き抜くけど、自分も騙されちゃうヒロイン。負けのほうが多いけど、一回勝つときは大きい。すべて自力で解決しようとするカッコいい女ですね」

米軍占領下の沖縄で、商魂たくましく生き抜く煉は、のっぴきならぬ事情から、移民としてボリビアに渡る。伝染病が蔓延するなか、荒々しいジャングルを女の細腕と機転(時に悪知恵)で開墾し、さらには空賊となり、密かにキューバ危機にも関わって……と痛快で波瀾万丈な物語が繰り広げられる。

そのハラハラドキドキは第一級のエンターテインメント。ページをめくる指がとまらないが、ラスト1行、重い現実を突きつけられる。

「僕たちが習った反戦のお話って無垢で純真なうら若き乙女が恋も知らずに死んでいった……というものでしたけど、それってものすごく違和感があったんです。じゃあ、ブスとババアは生き残ったのかよって。反戦思想が聖域みたいになってものを言えない雰囲気があった。銃弾を受けたことのない、僕のような世代が書くからこそ冷静でフェアなまなざしが欲しくて、100%自分の言葉で書こうと決めました。それなら検証も可能になりますから」

本作の主要なモチーフである、ボリビアへの移民について知ったのは20年ほど前のことだという。

「彼らはものすごく苦労したそうです。でもね、送り出した側は移民がどんな目にあうか、ほぼわかっていた。それでも移住をすすめたのは、基地を作るためでもあったといえる。煉たちってある意味沖縄から捨てられたような存在なんです。数十年後、煉はまた沖縄の地を踏むわけですが、見捨てられた移民が、復帰した沖縄に戻ってきて、何も変わらない沖縄を見捨てるといいなと思ったんです」

ややこしく矛盾した現実はなかなか解決が難しいが、
「エンタメ作品の中で、戦争と移民、難しい連立方程式をおもしろく解けました。お説教だと興ざめでしょう? この歳になり、善きウチナーンチュの物語の軛(くびき)から逃れられてラクになった気がしています」

KADOKAWA 1,900円

『クロワッサン』963号より

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