その言葉どおり、過去の作品に登場する海を閉じ込めた酒「海酒」はカクテル専門店とのコラボレーションで現実となった。 「アイデアは、人がポロッと言うことから思いつくことも多いです。この間も会話の中で〈腕に覚えがある〉という慣用句を聞いて、『じゃあ腕に注射とかで直接覚えさせたらどうだろう?』って」 日常生活の中で感じる小さな違和感を集め、組み合わせ、作品として構築していく。
「日々、頭のフィルターにひっかかるんです。200作くらい書いたところで、アイデアをコントロールできるようになりました。最近は、即興でストーリーを作るトークショーなども開いています」
そして田丸さんは昨年、文学賞『ショートショート大賞』を立ち上げ、新人作家の発掘・育成に力を入れている。 「ショートショートは、星新一さんの時代に非常に盛り上がりましたが、もう一度、盛り上げていきたいんです。アイデアが命のショートショートにおいて、過去に書き尽くされたテーマの作品が多くて、たとえば安易に天国や地獄、殺し屋や宇宙人が出てきたり、夢をいじったり、時間が戻ったり(笑)。それが悪いとは思いませんが、書くからには相当の覚悟で書かないといけない。それよりも、現代のモチーフがいくらでもあるんだから、新しい可能性を開いていきたい」