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『無銭経済宣言 お金を使わずに生きる方法』マーク・ボイル・著/吉田奈緒子・訳|本を読んで、会いたくなって。

お金に頼らない、新しい経済モデルの提案。

よしだ・なおこ●1968年、神奈川県生まれ。移住先の千葉・南房総で、自給用の田んぼを耕しつつ、翻訳に携わる”半農・半翻訳”の暮らしを送る。他の訳書に、『スエロは洞窟で暮らすことにした』(マーク・サンディーン著、紀伊國屋書店)が。

撮影・尾嶝 太

著者は、アイルランド出身のフリーエコノミー(無銭経済)運動を創始した男性。2008年に始めたいっさいお金を使わず生活する実験の1年間を記録した著書『ぼくはお金を使わずに生きることにした』の第2弾にあたる本書。さらに思索の深まった理論編と、住居、食事、教育、健康など充実の実践編からなり、日本語版としては6年ぶりの刊行となる。今回も翻訳を担当した吉田奈緒子さんによると着手から約3年、500ページ近い大作になった。

「お金を介在させないというと、物々交換かと思う人も多いけれど、物々交換は双方が等価と認めないと取引が成立しません。それではお金と同じこと。彼が提唱するのは、無償の贈与の応酬。何かしてあげた相手から直接見返りを受け取るのでなく、無条件で与える行為を連鎖させることで、人々の間に絆が生まれ、いつか自分に恩恵が戻ってくるという考え方です」

いくらお金があっても不安感は消えない。資源を収奪し、富を貯蓄することでとてつもない不公平も生まれている。

一方、お金を手放し、必要なだけ分け合う意識でいると、「『誰かが助けを必要としていて、自分には助ける力がある』という理由だけでひと肌ぬぎたがる人がいる」と著者は請け合う。実践編にはそうした哲学に沿う生活の知恵が詰まっている。この先何が起こっても大丈夫と思えるのは、絶対こちらの知識のほうだ。

「そもそも彼は、人間中心主義を疑っています。動植物や微生物など、すべての生き物を尊重して、人間も生態系と共存すべきだと」

生態系という恩恵の連鎖の中、人間の都合で自然を好きにしていいはずがない。効率的な金儲けのために、きれいな空気、新鮮な水、肥沃な土壌を犠牲にして、人間は生き続けられるのか? その問いかけは、現実問題として胸に響く。

「私自身、派遣社員だったときは、自分の時間を売ってチャリンとお金が入るという意識が染みついていて、時間の無駄は損だと感じていました。

それが今は、米は完全自給、野菜なども近所と分け合う地域のネットワークの中で暮らしている。だから、3年もかけて翻訳に取り組めたのだと思います」

100%ローカル経済も無銭経済における理想形。吉田さんはそこに一歩踏み出している。帰り際、取材に訪れた私たちに、豆乳ヨーグルトのタネを持たせてくれた。

「みんなに分けておけば、いつか家のタネがダメになっても、きっとどこかから戻ってきますから」

まさに贈与経済。思いやり深く、安心できる循環を体感した気分だ。

紀伊國屋書店 2,000円

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