それにしても少年は、なぜこんな状態のまま見過ごされてしまったのだろうか。本書は少年の生い立ちを幼少期まで遡り、事件を起こすまでの足取りを追っていく。
「最初は行政の問題だと思って取材をしてみると、児童相談所もそれなりに対応しているし、わかりやすい『悪』は存在しませんでした。ますますなんでだろう、と」
「セーフティーネット」という言葉があるが、そのネットの隙間からこぼれ落ちてしまったような事件。子どもは学校とのつながりが切れてしまったら居所を把握できないこと、自治体間で共有できるデータベースがないことも問題だ。だが、それだけでなく、周囲の大人たちの誰かが、少年の様子を見て声をかけていたら……。
山寺さんが少年に、なぜ取材を受ける気になったのかを尋ねたところ、返ってきたのはこの社会、大人たちへの願いだった。以下は少年の手紙からの引用である。