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『ある日うっかりPTA』杉江松恋さん|本を読んで、会いたくなって。

自分のために、やってよかったですね。

すぎえ・まつこい●1968年、東京生まれ。ライター。メーカーを退職後、ミステリーをはじめ、さまざまなジャンルの書評を中心に執筆。落語プロデューサーとしても活動中。2008〜2011年にかけて、都内公立小学校でPTAの会長を務めた。

撮影・中島慶子

ある年齢以上の子どもを育てた経験のある人なら、PTAに複雑な思いを抱く人も多いはず。(押し付け合いになりかねない)役員決め、(強制参加に近い)会議や日々の活動……あれって “オソロシイ謎の組織” ではないのか、と。

学童の集まりによく顔を出していた杉江松恋さんはどこで目をつけられていたのか、突然、小学校のPTA会長になることを打診され、そしておっちょこちょいゆえ、うっかり、それを引き受けた。

「晴れがましいことのない人生を送ってきたので驚きましたね(笑)。ただ、やってみたらすごく面白かった。学校によって事情は違うでしょうが、関心のある人も多いだろうし、この体験を知らせておけば、将来PTAに関わるかもしれない人も心の準備ができるだろうと、記録としてまとめました」

負担の大きい周年行事や校庭開放を見直すといった改革の様子が具体的に紹介されており、硬直化した体質に疑問を抱いている人には参考になるだろう。また、役員経験のない人にとっては、役員の苦労を知ることができる本である。

さて、いざ会長の座についてみれば、4月は子どもたちと同じように毎日登校しなくてはならないほどの忙しさ。校長先生との連携も必須だし、実務ひとつとっても、

「生活文化が違う人が集まって何かするわけで、それはもう面倒くさいですよ。当時はメールができない人もまだ多かったですしね」

と、やはり、PTA活動は想像以上に大変なのであった。

「なにか変えようとしても、急がずに話をしてきちんと納得してもらわないといけない。会社なら命令で変えられるんでしょうが……」

とも、振り返る。人間関係のいざこざもゼロではなかったという。

「でも、得たものは大きかったですよ。仕事ばかりで狭くなっていた人間関係が広がりましたし。僕は子どもの入学前にフリーのライターになり、昼間時間を捻出できる状況だったので、PTA会長をやりましたが、別に少年野球や町内会でもいいんだと思います。地域にとけこみ、困ったときに相談できる仲間をつくるというのは大切なこと。よい経験をさせてもらったというのが本当の本音です」

結果的に3年間、会長を務めた杉江さんだが、PTAは自分が学ぶために参加するものだという発見があったと本書にある。子どものため、というより自分自身が成長するため。そう心から思えたなら、PTA活動を敬遠することなく、楽しめるだろうか。

角川書店 1,300円

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