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『東京の夫婦』松尾スズキさん|本を読んで、会いたくなって。

夫婦について語り合う材料に。

まつお・すずき●1962年、福岡県生まれ。「大人計画」主宰。作・演出・出演の舞台『業音』が公演中。出演映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』が9月16日公開予定。『GIN ZA』のコラムも引き続き連載している。

撮影・岩本慶三

朝ドラ『あまちゃん』で演じた喫茶店のマスター役に癒やされたという人も多いのではないだろうか。俳優に演出家、作家と、多方面で活躍する松尾スズキさんは、2014年、20歳年下の女性と2度目の結婚をした。その年に女性ファッション誌『GINZA』で連載を始めた夫婦生活についてのエッセイが、このたび書籍化された。

「『GINZA』読者が興味を持ちそうな東京の生活を、夫婦というもの込みでテーマにしようと思いました。と同時に、普段のコラムはギャグを入れつつ面白おかしく書いている部分があるけど、今回は無駄にふざけ過ぎず、丁寧に文章を書いてみたいなぁと。それで、現実を淡々と描写する面白さというか、小説とコラムの中間のような感じを意識しました」

妻からよく注意される癖のこと、2度の引っ越し、妻の両親への挨拶、認知症の母の介護……。綴られるのは日常の出来事だが、客観的で端正な文章は、確かにどこか物語めいた雰囲気を醸す。時に笑えて、時に心に染み入るエピソードの数数は、夫婦なら、家族なら、誰しも共感するところがあるはずだ。

「別々の街に生まれた男女が出会って夫婦になること自体、もうドラマチックですよね。地方出身者同士の僕らも、東京に出てこなければ出会えなかったわけだし」

本書のなかでたびたび触れられるのが、 “子どもを持たない選択” について。「子どもを作る気がない」という自分の意思を尊重してくれたことが、妻との結婚の背を押した、と松尾さんは書いている。

「忸怩たる思いはありますよ。動物の本能として欠落した部分を自分に感じるし、妻の前に付き合っていた人とはそれで揉めて別れることになって、俺はダメな人間だってすごく落ち込んで。克服しようと頑張ったこともあるけど、結局は吹っ切れずに悩み続けることを選んだ。つがいになりながら子を作らないっていう選択は、全然動物的じゃなくて、ある意味すごく人間だなぁとも思いますね」

そして最終章で語られる、「20歳年上の自分が先に死んだら、妻に身よりはあるのだろうか」という問い。子どものいない夫婦が直面する現実への切実な思いは、胸に迫るものがある。

「できるだけ長生きしたいという思いと、逆に早めに死ねば妻が次の人を見つけられるかもという思いと……。一つ夫婦があったら、必ず一つは悩みがあると思う。この本は指針にはならないかもしれないけど、こいつらも相当悩んでるんだ、と夫婦で語り合う材料にはしてもらえるかもしれません」

マガジンハウス 1,400円

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