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『スウィングしなけりゃ意味がない 』佐藤亜紀さん|本を読んで、会いたくなって。

人類って進歩しないんだなって思います。

さとう・あき●1962年、新潟県生まれ。’91年に『バルタザールの遍歴』でデビュー。歴史や芸術に対する深い造詣が、物語世界を豊かに彩る。著書に『鏡の影』『モンティニーの狼男爵』『雲雀』『醜聞の作法』『金の仔牛』『吸血鬼』など。

撮影・中島慶子

どれほどの資料を読み込んだのかと驚嘆せざるを得ない作品を描き続ける佐藤亜紀さん。最新刊の舞台はナチス政権下のドイツ・ハンブルクだ。ちょっと嫌味なほど裕福な家に生まれたエディが夢中なのは、退廃音楽とされているスウィングジャズ。みっともない半ズボン姿でヒトラー・ユーゲントの愛国的団体活動を強いられるなど冗談じゃないと思っている不良少年は、戦争に巻き込まれながらもしたたかに生き抜いていく。

「ベルリンの壁の崩壊後、それまで知られていなかった類いのナチの話が本当にたくさん出てきたんですね。エディのような、かつてのハンブルクのスウィングボーイズたちが取材に応じたりして。ずっと当時の資料を集めていたのですが、若い人の話は書きづらかったんです。50歳を過ぎまして、親の心理も若者の心理もどちらも書けるようになった今、この物語を書けてよかったなあと思いますね」

エディは自国を “お馬鹿の帝国” だと感じながら、しかし政治活動に身を投じることもなく、ただ音楽に熱中する(もちろんそれは反体制的行為)。

行動を共にするのは同じく金持ちの上級生や、8分の1ユダヤ人のピアニスト、父の工場で働く従業員の息子といった面々。

「調べてみると、ナチ上層部は人々を弾圧しようとしたものの、現場レベルでは温度差があったようです。この頃のドイツにはすでに20世紀型の消費文化があり、一方で強固な社会的基盤もあった。ナチはその間に入ってしまったかたちで、どちらも崩せなかったんです。国民の人間性を変えようとして、結果、失敗したのですが、そういうときにこそ人間の本能というものは強く残るんだな、という印象を書いていて持ちました」

生意気に遊びほうけているエディは鑑別所に送られるが、出所後、海賊版のレコードを大量に作って売りさばく。悪化する戦況にあって、なんとも自由な行動だ。

「でもね、実はそれは条件付きの自由。彼は親から金を稼ぐのが一番大事だって教育を自然と受けていたんです。しかも金が紙くずになることもあるってことまで叩きこまれてるんですから」

と、作者は冷静に分析してくれたが、彼らの若者らしい無謀な行動の痛快なこと! 従順であることが習い性になってしまった大人に読んでもらいたい物語だ。なお、各章タイトルはジャズのスタンダードナンバーの曲名。佐藤さんの訳詞が本文中に織り込まれており、聴きながら読めば興趣がつきない。

角川書店 1,800円

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