「実は、自分の書いたものが本として出来上がるまでに、どのような人のどのような仕事を経ているのか、ほとんど知りませんでした」
津波のために水を含んで膨れ上がり、書棚から抜けなくなった本。その悔しさを涙を流して語ってくれた書店員。
5年前、東日本大震災で被災した、東北地方各地の書店が復旧していく様子を何度も現地を訪れて取材したときのことだった。
「命に関わるような状況下では、本なんて必要とされていなかっただろうと思っていたのですが、地震の翌日には書店の再開が求められていたのです。物質としての本を初めて意識しました。そして、どのようにつくられているのかを知らないということに、心もとなさを覚え、自分の仕事を改めて見つめ直してみようと思ったことが、この本を書くきっかけでした」