「とにかく、人が主役で生きている。そのことに強く惹かれたの。営まれている暮らしにも、人の数だけバリエーションがある。それを短編にしたらおもしろいなと」
そして書き上げたのは、田舎から初めて出てきたおばあさんと白タクの運転手のエピソード、閉店するグリーンマーケットの店主のために町の人々が仕掛けるサプライズ、近所の店の子どもたちの小さな冒険など、町とそこで暮らす人々の息吹を感じるものばかり。舞台はニューヨークだが、まさに山本さんらしい人情噺なのだ。端役に至るまで、その人の物語も読んでみたくなるほど。ここに行けば会えるかもと想像してしまう。現に、話に出てくる名物ピクルスや焼きとうもろこしのコーン・スペシャルなどは本当にあるグルメ。
「エンパイヤ・コーヒーもしびれるぞ! 刑事映画のまんま、警官がたむろしてコーヒー飲んでドーナツを食ってる。店のお兄ちゃんは本当に豆が好きで。デカフェでも種類が豊富でうまいんだ」