本書は、昨年春、83歳で亡くなった佐々木さんの生涯を追った評伝だ。戦後日本、舞台芸術の創世記に関わる証言集としても面白い。
「『僕らは驚きのあるいい時代を生きたと思う』と語った演出家の栗山昌良さんや舞台美術の妹尾河童さんの証言は刺激的でした」
人一倍の気配りと美意識、理想を叶えるための粘り強い努力、お茶目で人を喜ばせることが大好きな一方、どこか気難しく孤独を抱えた人柄。31歳でバレエ団の代表となり、日本人の渡欧すら珍しい時代に世界の超一流を相手に、まるで相手にされない状態からめげず卑屈にならず媚びもせず、たった一人、繰り返し交渉していった。
「たいへんな粘り強さと執念。計画や交渉の経過は誰も知らなかったけれど、遺された30数冊の手帳には時々の思いや予定が書きとめてありました。16年間、共に闘った通訳の女性にもミラノで会いましたが、夢をひとつひとつ実現していった信念の人。取材は本当に楽しかった。彼の人生に退屈がなかったからだと思います」
理想の舞台を目ざし、裏方も含め多くの人に夢のような飛躍の機会を与えたが、私欲はなかった。