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『僕の音楽キャリア全部話します』松任谷正隆さん|本を読んで、会いたくなって。

最高傑作は、常に次の作品だと思っています。

まつとうや・まさたか●1951年、東京生まれ。’71年、加藤和彦さんに誘われてミュージシャンデビュー。その後、アレンジャー、プロデューサーとして妻の松任谷由実をはじめ、松田聖子、ゆず、いきものがかりなど、多くのアーティストの作品に携わる。

撮影・青木和義

 日本人の誰もが聴き覚えのある名曲の数々を世に生み出してきた松任谷正隆さん。これまでの音楽人生を振り返り、インタビュー形式の一冊に凝縮した。

「僕が普通に歩んできた道を話しました。会社員が会社生活を送ってきたのと同じように、上司や同僚、仕事の内容です。たまたま45年間、変わらなかった仕事が音楽だったというだけ」

 とはいえ、半世紀近くの長きにわたって日本のポップシーンを牽引してきた過程や苦労には、並々ならぬものがある。妻である松任谷由実さんとの数々の活動はもちろん、新婚旅行は熱海の旅館で、吉田拓郎さんやかまやつひろしさんも同行して大宴会になってしまったエピソードや、松田聖子の「赤いスイートピー」のアレンジが、イルカの「なごり雪」のアレンジに近いアプローチをしていたなど、興味深い逸話が次々と登場する。

「本の中にもありますが、“アレンジは絵画”と、いつも考えています。音の中に何らかの風景が立体的に見えてくることが大切で、由実さんが曲のベースを作り、僕が見た景色(曲のアレンジ)を伝えて彼女が詩を書いていきます。例えば『春よ、来い』は、和の風景。昭和初期の色合いというか、子どもの頃に見た神田川周辺の桜並木が赤茶けたフィルムの色に映っているイメージ。由実さんも、じゃあ、歌詞は昔の言葉でやりたい、って。最新アルバム『宇宙図書館』も同じように、まず由実さんが曲を書きました。僕は“銀河鉄道”がキーワードで出てきた曲もあって、垂直なボックスシートの列車で終着駅のない旅みたいな景色がすごく気に入っていたんだけど、どうやら由実さんのイメージは違っていたみたいで(笑)」

 由実さんとの音楽活動については、こんな一面も。

「僕が由実さんのプロデュースをすることのメリットは511、デメリットは491だと感じています。実は僕がやらなかったほうがよかったのかも、といつも思っている。この21の差はあってないようなものなのですが、強いて言うなら、この人に任せておけば大丈夫という、僕の想像のつく範囲での由実さんの“安心感”でしょうか……。そう思えるからこそ、これまで彼女の音楽や舞台をプロデュースし続けてこられたのかも。もちろん、新しいプロデューサーを迎える勇気も必要だと思っています」

 読み進めながら、自分の青春を振り返って、つい口ずさんでしまう曲が必ず見つかるはずだ。

新潮社 1,400円
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